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【容量市場を考える座談会】前半:プレゼンテーション

先日来、創業者ブログのコーナーを活用して、容量市場の問題についての考察をご紹介しています。今回はこれまで論考を寄せてくださった東京電力ホールディングス株式会社経営技術戦略研究所の戸田さん、株式会社ディー・エヌ・エーのエネルギー事業推進部 シニアマネジャー松尾さんに加えて、新電力大手のLooop社取締役・電力事業本部の小嶋本部長にも参加いただき、座談会という形でこの問題を議論しました。

前半に頂いた3名の方によるプレゼンテーションをそのまま動画でご紹介します。(下記にそれぞれのプレゼンテーションのまとめもアップします)

それぞれのお立場からのこの問題の分析やご意見をぜひご覧ください。

株式会社ディー・エヌ・エー エネルギー事業推進部

シニアマネジャー 松尾 豪

1.容量市場の必要性

そもそも容量市場はなぜ必要なのか、私の認識を紹介したい。

世界各国で脱炭素電源の導入拡大が進んでおり、既存電源は収益性低下に直面している。既存電源の収益性低下に政策的手当を行わない場合、既存電源の退出・廃止に繋がる可能性が高い。各国では安定供給の観点から必要な政策的手当として容量市場、インバランス制度改革が行われるようになっている。

近年、「アデカシー」という言葉が取り沙汰されるようになっているが、これは電力広域的運営推進機関が公表している広域系統長期方針には「需要に対する適切な供給力及び送電容量が確保されること」と定義されているが、政策的手当を行わず既存電源の退出・廃止を行っていくと当然アデカシー確保の課題が顕在化する。容量市場は再エネ大量導入と再エネ主力電源化に必要な政策的手当であるものと認識している。

今後、更に再生可能エネルギー電源が導入されていくことになるが、今後建設される再エネ電源の多くはFIP制度を活用することになり、FIP制度の導入は「再エネの市場統合」を示すものであると認識している。再エネの市場統合にあたってはFlexibilityの重要性が高まり、特に脱炭素の観点では、DRの重要性が高まると認識している。

需要側FlexibilityであるDRも電源の一種であり、その開発にあたっては投資回収の予見性確保が重要になる。

2.再エネ大量導入時代の市場変化に伴う小売電気事業者の価格戦略の変化

再エネ大量導入時代には、小売電気事業者のプライシングにも当然大きな影響がある。これまで、スポット市場は限界電源の容量価値は反映しておらず、小売電気事業者は特に高圧・特別高圧の需要家に対してはkW価値の値引きで顧客獲得を行ってきた。価格競争が進む現状では、託送基本料金まで値引くケースも出ていると理解している。

一方で、再エネ大量導入時代には限界費用の安価な電源が大量に導入されるため電力卸市場の約定価格が下落し、また容量拠出金の負担を負うことから、小売電気事業者は価格戦略の変更に迫られる。基本料金を値引き過ぎている需要家の場合には、容量拠出金支払い開始後は当然値上げが必要になる。

新たな原価に対応した料金体系にどのように移行していくかが、今後小売電気事業者全体で直面する課題なのだろうと理解している。

3.論点と提言

今回の容量市場の調達容量112.6%は、他国に比べて調達容量が多いとは言えないと考えている。例えば、米国PJMの目標調達量は114.8%、英国は106.8~114.4%である。また、カリフォルニア公益事業委員会がLSE(小売電気事業者)に課す供給力確保義務は需要の115%である。

一方で、気になるのは応札電源の落札率である。日本の落札率は97%と、英国70~80%程度、米国80%台後半に比べて非常に高い水準である。これは原子力電源の応札率が非常に低く、限定的であったことが影響しているものと考えられる。

最後に、提言も含めた事例紹介だが、PJM容量市場の強制入札の考え方を紹介したい。PJMの容量市場(RPM)では、パワープール市場への参加電源を調達する目的で開催しており、FRRで相対契約を行っている電源を除くすべての電源に対し、RPMへの入札義務が課せられる。リクワイアメントの審査はPJMが行うが、日本でも全ての電源に対して入札義務を課す、同様の仕組みの導入も考えられるのではないか。今後、分散電源の大量導入が進むと、現在のリクワイアメント審査の仕組みでは応札を見送る分散電源が増える可能性があり、分散電源の供給力を評価できない結果、火力を中心とした供給力を過剰に調達してしまう恐れがある。例えば、全ての電源に対して容量市場への入札義務を課し、その審査は電力広域的運営推進機関が行うことで、容量市場の透明性、信頼度を高める必要があるのではないかと考えている。分散電源に対しては、アグリゲーターを通じた容量市場への参加義務を課すことで、市場参加できない分散電源を減らす配慮も必要になると考えられる。

以上

      

東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所

チーフ・エコノミスト 戸田直樹

【今回の結果をどうとらえるか】

10月13日に電力・ガス取引監視等委員会から公表された、約定価格(14,173円/kW)で応札した複数の電源(限界電源)の維持管理費を見ると、電源の維持管理費、年間12,262円/kWに対して、スポット市場や調整力公募などの他の市場から得られる収益は年間424円/kW(スライド1)。すなわち、大手電力が自主的取り組みと称して、短期限界費用による(=固定費回収が期待できない水準による)市場投入を継続している中で、年間1万円/kW以上の未回収費用(ミッシングマネー)が発生していることになります。これに照らして、今回の約定結果による容量拠出金の9,445円/kW、経過措置電源が受け取る容量確保契約金の8,199円/kWは、特に高いわけではないと受け止めています。

ちなみに、他市場収益年間424円/kWから推定される稼働時間は年間27~54時間との記事がありました。ざっくり30時間とすると、東京電力PG管内の需要実績から、年間30時間以下の電源は200万kW程度。全国では、500~600万kW程度必要と想像されます。

こうした電源はDRに置き換えていくのが効率的な可能性がありますが、この価格相場を示すのも容量市場の役目です。

【制度改善提案1:経過措置は廃止するべき】

経過措置については、次の理由から廃止するべきと考えます。

そもそも、導入する根拠が薄弱でした。一定時期以前の経年電源に対する容量確保契約金をディスカウントする理由について、議論の初期には「容量市場導入を想定せずに投資判断を行ったはずであるから、容量確保契約金額を全額受け取らなくとも差支えないはず」との主張がなされていました。しかし、経年電源は「電力市場が自由化されること」も想定していません。もっと具体的に言うと、「限界費用による市場投入が求められて、ミッシングマネー問題が発生する環境に置かれること」も想定していません。投資判断の際に想定していなかったミッシングマネー問題に対処する制度として容量市場を議論しているのですから、容量市場導入を想定していなかったから減額、というのは無茶な理屈です。とはいえ、経過措置は導入されてしまいましたから、今となっては政治的に決めたとしか説明のしようのないものになっています。

加えて、経年電源というだけで経過措置の対象としてしまうのは、制度設計が粗雑に過ぎました。ピーク供給力・ミドル供給力を担う石油火力、LNG火力とベース運転をする石炭火力には状況に大きな違いがあります。ミッシングマネー問題が深刻なのは、ピーク供給力・ミドル供給力を担う経年の石油火力、LNG火力であるのに、これらをディスカウントの対象としてしまうのは矛盾であり、その矛盾を取り繕うために、逆数入札を認めざるを得なかったと推察します。

そして、このようにして導入された逆数入札が市場に要らぬ歪みと混乱をもたらす結果になっています。これは10月13日に公表された電力・ガス取引監視等委員会によるシミュレーションが示唆しています(スライド2)。これは同委員会が行った2つのシミュレーションのうち「経過措置なし、かつ、逆数入札なしの制度とした場合(ケース1)」のシミュレーションのイメージ図です。

この図から二つのことが読み取れます。第一に、経過措置・逆数入札ありで行われた現行の供給曲線はこの不自然な制度のために歪んでいて、不自然な制度がなかったケース1よりも上にシフトしています。その結果、需要曲線と供給曲線の交点が、ケース1よりも70万kW程度小さくなっています。これは不自然な制度のためにkWの調達量が過少になっており、調達量を需要曲線と現行の供給曲線の交点で決める場合には、電力システム全体として過剰な停電のリスクを負っていることを意味します。

第二に、不自然な制度のため、本来落札すべきであった電源が落札できないことが起こっています。今回の入札では、限界電源(14,173円/kWで応札した電源)の中に逆数入札をしていなかったものがあることが分かっています。ところが、ケース1の約定価格は10,488円/kWなので、その電源は落札していません。その代わりに、ケース1では落札したのに、実際の入札では落札できなかった電源があることになります。それはおそらく逆数入札を余儀なくされた電源です。例えば、ケース1の限界電源(10,488円/kWで応札した電源)がそれであったとすると、この限界電源が維持管理費を回収するためには、約定価格が10,488円/kW÷0.58=18,083円/kWでなくてはなりません。しかし、それでは上限価格を上回ってしまうために、これよりも維持管理費が高い電源が落札しているにもかかわらず、休廃止を選んでしまった可能性が示唆されます。

最後に、これは報道のされ方の問題もありますが、不自然な制度が生んだ約定価格14,173円/kWばかりが強調され、実態以上に価格が高騰した印象を世の中に与えてしまったことです。落札電源の約8割を占める経過措置電源に支払われる容量確保契約金は8,199円/kWで、ミッシングマネー問題が深刻なピーク供給力・ミドル供給力の存続に影響するのはむしろこちらの金額であるにもかかわらずです。

【非効率石炭火力フェードアウトと容量市場】

容量市場の制度に非効率石炭火力をフェードアウトするための何かしらの誘導措置を設けることが既定路線となっているようです。スライド3はIEAのIEA 上級電力政策アナリスト(当時)の方が、日本の審議会で話したことで、容量市場を気候変動政策として用いるのは間違いとの意見ですが、自分もそう思います。

ではどうするかですが、素直なのは炭素価格の導入です(スライド4)。容量市場は経済的に供給力を確保するためのものですから、炭素価格を適用して石炭火力の限界費用を上昇させつつ、それでもkW価値の提供源としてその石炭火力が効率的であるならば、容量市場から締め出す必要はないと考えます。

具体的な炭素価格の水準については、石炭火力とLNG火力の限界費用が逆転するほどの大型炭素税を導入することが一案と考えられます。これにより、当面kW価値として必要な石炭火力は容量市場を通じて維持しつつ、大型炭素税を課すことにより当該電源の稼働時間を抑制していくことが可能になります。

日本における炭素税の議論は、賛成する側も反対する側もなぜか「炭素税導入=増税」という前提から抜けられずなかなか進まない傾向にあります。現行の炭素税(地球温暖化対策税)が特別会計財源であることも影響していると思われますが、諸外国では炭素税は通常一般会計財源であり、税収中立措置、つまり炭素税の増税と他の税(所得税、法人税など)の減税と組み合わせてマクロな税収を調整することが普通に行われています。これを前提とした議論を日本でも早く行うべきと考えます。なお、大型炭素税については、過去に別稿(大型炭素税導入を考える 同 下)を執筆しているので、参照ください。

制度改善提案2:石炭火力の稼働抑制のインセンティブを

大型炭素税を早期に導入するのは難しいことを前提にセカンドベストの案を提案します。

石炭火力、あるいはフェードアウト対象の非効率石炭火力について、稼働時間が一定水準を超えた場合に超えたkWhあたり一定額を容量確保契約金から差し引くこととします。一定額は具体的には、発電電力1kWh当たりの限界利益がマイナスになる程度の水準ということになります。この減額措置により、当該石炭火力の稼働時間を抑制するインセンティブが働くので、炭素税導入と類似の効果が期待できます。

九州では既に実例が出てきているとも聞きますが、再エネの普及により今後は石炭火力でも稼働時間の減少が顕在化すると想定されます。稼働時間が小さければ容量確保契約金は満額支給されますので、kW価値として必要な石炭火力を維持することが可能になります。

以上

株式会社Looop 取締役 電力事業本部 本部長

小嶋祐輔

1.2020年度の容量市場オークションの結果を受けて(スライド3~4)

2020年9月14日に広域機関から公表された、今年度のオークション結果を見て、最初に受けた感覚は「想定以上に高い」であった。これは、欧米格国の価格水準から数倍~十数倍のレベルであること、および容量負担金が当社の営業利益の数倍の水準になることから受けた感覚である。アセットを持たない小売電気事業者からすると、経営を大きく揺るがす事象であることは否定の余地もないものと思われる。

新電力(特に、アセットを持たない新電力)が、今回の結果に対し、現在の競争環境が維持できないレベルと主張している一つの理由として、可変費ベースでの過当競争になっているマーケットの存在があげられる。表1は、旧一電小売の一般的な高圧のメニューを、基本料金が託送料金の水準まで値下げした場合に、原価が託送+JEPX(スポット市場、エリアプライス)+容量負担金であった場合の粗利高の水準である。なお、需要は当社が小売供給しているエリアの契約電力あたりの加重平均需要(負荷率24%)を使用し、容量負担金は託送契約電力1kWあたり0.5kW分がかかるとした。需要、および市場価格は2019年度の1年間を使用している。


表1 高圧領域における、市況価格で販売した場合の利益(容量負担金がある場合)

結果として、関西・中国・四国以外のエリアは粗利ベースで赤字、関西・中国は粗利ゼロの水準であることがわかる。売価の「基本料金が託送料金の水準まで値下げした水準」は、高圧の大型法人に対して、実際によく提案されている水準である。どのプレイヤーもマーケットが可変費ベースの過当競争を強いられている状況であることが良くわかる。一部のマーケットセグメントでは、容量負担金の増加により現在の電気料金を維持することは困難である(競争水準が持続可能でない、という言い方もできる。)原理原則論で必要である容量価値であるということも一つの論理であるが、電力全面自由化から、容量価値の市場としての導入まで8年間。この間に可変費ベースでの苛烈な競争がすでに繰り広げられているという事実も受け止める必要があると考える。 

2.容量市場の改善すべき点 (スライド5~8)

 第一回目のオークション結果を経て、いろいろな議論がなされているが、個人的には、「何のために容量市場を設置したのか」というのが様々な議論の中でやや隠れてしまっている印象を受ける。図2にも示されている通り、容量市場は、①電源投資の予見性の担保による競争力のある供給力の確保 ②卸電力市場の価格の安定化が目的で設置されたはずである。


図2 容量市場導入の背景と目的(2019/3 広域機関より)

第一回目のオークションを経て、容量市場では投資予見性を付与することは困難との指摘が増えてきている印象を持つ。1年分の収入確保しかないこと、価格のボラティリティが原因とされている。他の容量価値の市場導入を検討する前に、せっかく導入したこの市場の予見性を高める努力をするべきではないかと考える。一例では、経過措置/逆数入札の存在、戦略的札入の許容、稼働の蓋然性が少ない電源がペナルティを恐れて応札せず、といった要因が、供給曲線の形を原理的な水準からゆがめる要素となるのでは。透明性をもった入札をさせることで、原理的な容量価値を求め、電源の新設・廃止の情報等と合わせて予見性を担保するような取り組みが必要ではないかと考える。

 市場スパイクを抑制する目的であることも、忘れてはならない。2022年度からのインバランス料金のルールは、一部の調整力をインバランスに転嫁するような価格帯になっている。価値の二重取りにならないような制度の設計を求めたい。

3.電力システム改革全体で考えたときの容量市場の意義(スライド9~10)

 電力システム改革の本来の目的は、安定供給・経済性の確保・需要家のサービスの選択肢の拡大であった。昨今ではここに脱炭素が加わり、エネルギー政策の中心的思想になっている。再エネ主力化の推進のために、再エネ・DRの価値認識の強化、古い電源の退出を抑制しない処置など、電源投資においても新技術が入り、新陳代謝が進むような形が取れるような制度設計が求められている。

これまで、アセットを持たない新電力でも、自由なサービス展開ができるように市場整備がなされてきたわけだが、再生可能エネルギーの主力化に伴い、各種電源の投資予見性が下がり、業歴の長い旧一般電気事業者でも難しい環境下になってきている状況下で、これら新電力は改めてその意義が問われている状況である。新規参入者の競争環境の維持/事業予見性の確保を担保しながら、脱炭素社会を形成できるような市場環境の形成がなされていくことを期待したい。また、一事業者としてその市場形成にはしっかりと貢献をしていきたいと考えている。

※お詫びと訂正:「高圧領域における、市況価格で販売した場合の利益(容量負担金がある場合)」について、対談動画では、容量負担金から一般送配電事業者負担分である6%の控除をしていない数値での計算結果を掲載しておりました。本文では訂正をしております。お詫びの上、訂正致します。

以上