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【容量市場座談会】後半:ディスカッションパート

U3I:改めて皆様にいくつかご質問していきたいと思います。まずは、落札価格が適正だったのかどうか。一部では「濡れ手に粟だ」という発言や報道もありましたが、価格が適正ではなかったという認識があったのだと思っています。では適正な価格とはいくらくらいを指すのか、どうやってそれを算出するのか、といった点についてご意見をいただきたいと思います。

さらに付け加えると、市場メカニズムを利用する以上、前提としてユーザーがいると思いますが、今回目的とする系統のアデカシー確保の最終的な受益者は社会もしくは需要家全体、得られる利益は「停電しない社会」ということになろうかと思います。そのときに、停電しない社会のためのコストとして今回の価格が適正なのかどうかという視点で、これまで検討がなされてきたのか。この先、例えば新電力という立場で、ユーザーの目線に立った時、適正な価格を容量市場メカニズムにおいて織り込むことができるのか等について、御三方の立場からご意見をいただきたいと思います。

松尾:価格については、一義的には適正だったと理解しています。容量拠出金のkWあたりの負担額は月額700円後半と見られ、これは常時バックアップ基本料金よりも随分低い水準となります。常時バックアップの価格は全電源の平均価格を踏まえた価格設定であるというのが元々の建前であるので、少なくとも総括原価時代に過剰に積み上げられた固定費が自由化で効率化できたということが言えると思います。もう一点、そもそも1.5倍という上限価格が適正だったのかという議論があっても良いと思います。上限価格を設定している以上、その中に収めることが大前提となりますが、今回の約定価格はその上限価格に収まっているために適正な価格であったということは言えると思います。

戸田:実際に生じているミッシングマネーの実態と比べると、価格水準としてはこの程度ではないかと思っています。14,137円がクローズアップされすぎている点はあるとは思います。原子力の再稼働が不透明であるなどの色々な要因から、一部応札に慎重になってしまった人がいた影響もあったと思いますので、それらが反映された需給状況のもとで出た価格になっていると思います。もしこの価格が安くなるなら、電源が余っているということなので、それはそれで価格シグナルとして受け止めるべきことと思います。

一方、先ほどのプレゼンではLooop小嶋さんの価格シミュレーションが興味深く拝見しました。噂では聞いていましたが、基本料金を託送料金並にまで下げるのはやはり無茶だと思います。過当競争というより破滅的競争になっているという表現をした方が良いくらいに感じました。通常の基本料金が千数百円に対して現状の価格設定が500〜600円程度で、総額の2〜3割にも及ぶ値引きはやりすぎではないかという印象は正直持ちました。ここをもっと適正化しないと業界として持続可能にならないのではと思います。

株式会社Looop小嶋さんご提供資料

小嶋:おっしゃる通りなのですが、実態は大型の高圧、特高法人はかなり安い金額で調達しているケースも多いと思います。調達部門が全社で集中購買をするなどした場合は、特に競争の厳しい東京電力、関西電力管内などでは、今回示した価格にかなり近い水準になっているという実感はあります。それが適正か、持続可能かというと、そうではないのだと思いますが。

U3I:確かにこういう競争構造の値引きの原資は「安定供給のコストへのフリーライド」だとすると、システムとしては持続可能ではない、ということが戸田さんのご指摘ですね。

小嶋:価格が適正かという質問に対してですが、最終的な適正さは原理的適正にあると思います。そういう意味で今回は、逆数入札や経過措置、札入れの価格の問題、期待容量と応札容量の違いなどは、原理的適正からはずれる要因として残ってしまったのだろうと思います。それが原理的適正に近づけば、予見性は高まるとも思っていますが、現時点においては原理的適正に対して課題が残っていると認識しています。あとは、ユーザーの目線で言うと、お客様が納得できるかどうかだと思います。例えば赤字になってしまうユーザーに対して国の安定供給のために値上げしますという説明ができれば、納得されていくと思っていますが、そもそも原理的適正から外れてしまうと説明が難しいだろうなと思います。

あとはそもそもこの制度自体が難しいということもあります。ユーザーにとって納得感があるかどうかは説明次第だと思っています。

U3I:確かに値上げに対しては事業者として説明責任を果たしていかなければなりませんが、逆にこれまで値下げできる理由をどう説明していたのでしょうか?

小嶋:なぜ安くできるかということに対しては、オペレーションの自動化や、Web活用などによる体制の効率化などの経営努力によってです、とお伝えしてきました。値上げ要因についてもできる限りはこうした経営努力で吸収したいと思っていますが、粗利では吸収が難しい。できれば値上げはしたくないですが、粗利赤字では会社の業績からすると供給しない方がいいということになってしまう。経営努力では如何ともしがたいかなと思います。

松尾:率直に申し上げて、容量市場の導入のタイミングが遅かったということもあると思います。前提として余剰電源を限界費用で玉出しするのであれば、旧一電の需要家が減ることでより限界費用の低い電源まで対象が広がることになります。結果的に限界費用を割るほどスポット価格が下がる状態になるまで容量市場の導入が遅れた理由は検証が必要だと思います。現在の過度な値引き競争はどこかのタイミングで本来必要なkW価値を削る競争に突入してしまっていたわけです。私も過去に新電力で電源調達を担当していましたが、全面自由化の時期くらいに相対契約の電源は勝負できなくなってきた局面がありました。スポット価格の方が安いと。この時期がターニングポイントだったのだろうと思います。限界費用の玉出しを電力システム改革専門委員会の報告書で位置付けた時点で、本来は容量市場の設計に早急に着手すべきだったのではないかと思います。そして設計した上でどのタイミングで導入すべきなのかという議論があって然るべきだったのではないかと思っています。

小嶋:それに対しては本当にそう思います。もう今となっては仕方がないことですが。

松尾:新電力に勤務していた立場からすると、フリーライドと言われるのは心外でもあります。新電力は競争の中で顧客を取られてしまうので、生きるか死ぬかにおいて選択権はなかったと思います。

U3I:次は制度をこれからどう変えていくのが良いのかという点に対してご意見をいただきたいと思います。例えば、シングルプライスオークションであれば、原価が違うプレイヤーが手を挙げれば、当然もらえる利益が違ってきますが、Pay as bidとするやり方も考えられます。National Gridの需給調整市場でも一部Pay as bidを導入していたと思いますが、容量市場でPay as bidを導入する問題点、採用されなかった理由、今後採用しようとしたときに考えられる懸念があるのか、と言う点についてご意見をいただきたいです。

もう一点、容量市場は発電所建設のインセンティブという目的があると思いますが、一方で電源投資には容量市場だけでは十分ではないという前提で議論もされています。現在は電源投資のインセンティブという観点で需要曲線はNet coneベースにして作成されていますが、それがインセンティブとして機能しないのだとすると、Net coneベース以外の需要曲線の描き方はありうるのでしょうか。基本はサプライヤー視点での需要と供給を作るので、サプライヤー目線で儲けすぎなのかどうかという点に議論が集約されるのだろうと思っていますが、今後この容量市場をどうやって広く納得性のある仕組みにしていくのかという観点でご意見をいただきたいと思います。

戸田:Pay as bidにするのは議論としてありうると思いますが、実質総括原価に戻るようなものじゃないかと思います。経年石炭火力が大きな利益を得るとの指摘がされるのですが、エナジーオンリーマーケットでも、価格スパイクが起きれば全ての電源が高い価格の恩恵に浴するので、同じことになります。これが受容できないなら総括原価に戻す方が世の中平和かもとは言えます。

発電所建設のインセンティブという点では、限界費用ゼロの再エネ大量導入が想定される中で、新設電源の稼働率はますます不透明になっているので、容量市場だけで電源新設できるかというと難しい気もします。それこそ、総括原価に戻すことも否定しきれないような。ただし、電源の新設以前に、今は今ある電源の維持すら危うい状況なので、これを是正する意味は少なくともあります。

容量市場の需要曲線の描き方については、以前弊社の岡本(東京電力PG副社長)が、OCCTOの検討会で停電コストと供給力の最適点で決める方法を提案しています。まだ実装された方法ではなく、そのときも採用はされませんでしたが、そうした発想が存在することは確かです。(関連資料リンク↓)https://www.occto.or.jp/iinkai/youryou/kentoukai/2017/files/youryou_kentoukai_08_06.pdf

小嶋:容量市場は投資に対する固定費を回収するための市場ということだと思いますが、固定費回収が終わっている電源とそうでない電源を分けて、前者は維持管理コストだけにして、後者は容量価値を予見性担保できるようにするのが良いのではないかと思います。需要曲線の描き方については難しい話で、今のところ特に良いアイデアはありませんが、容量の相対契約という論点はあると思います。電源をたくさん持っている人からは、長期で容量価値に対価を支払ってくれる方を集めて電源を新設したいという話をよく聞きます。参入してきたたくさんの新電力も、容量に応じてマーケットなのか相対契約、公募などの何らかの方法で、公平に容量負担をすることが必要です。一方で発電所建設する側が長期的に予見性を担保するためにも、これらのようなやり方が考えられるのかなと思います。

松尾:Pay as bidについては戸田さんと全く同じ認識で、電源が必要なコストを確実に回収できることを前提とし、コストの積み上げで電気料金から回収するのであれば、これは総括原価そのものだと思います。容量市場の市場としての価値は、供給力の過不足を価格シグナルで知らせることにあります。この価格シグナル、特に今回の上限価格を、社会としてどこまで許容するのかという点を論点化する必要があると思っています。需要曲線の描き方は、今のもの以上のものはないと思っています。小嶋さんのお話に少しだけ付け加えると、容量負担には一般送配電の負担と、小売事業者の負担、の両方があると思いますので、この割合が適正なのかという議論があっても良いと思います。

戸田:送配電事業者の負担については、現時点では予備率分は負担すると言っていますね。

松尾:確かに予備率分は負担するという整理ですが、この範囲をもっと広げる余地がないかどうかという議論があっても良いのかなと思います。

小嶋:調整力に類するところはkW価値が高くなりやすいので、単なる予備率の配分というより役割分担を広げるという視点でしょうか。

松尾:おっしゃる部分はむしろ電源Ⅱの価値に当たると思います。そこというより単純に小売事業者の負担が大きすぎないかという視点です。ある意味、経過措置や配慮に近い話なのかもしれませんが。

戸田:先ほど小嶋さんが話された相対契約は、容量メカニズムの類型で言うと、分散型容量市場に該当すると思います。分散型と集中型は、市場との裁定が起きるので結果一緒になる認識ですが、メリットがあるとすると、相対契約も認めることで相対契約しやすい環境が整うことはあると思います。

小嶋:ただ一方で、相対契約だとパワーバランスが出てしまいます。集中型が一番パワーバランスが少ないとすると、集中型としつつ透明性を高めるのが一番フェアかなと思います。

U3I:今回kW価値が詳になりましたが、電源は遅効性があるので、DRなどの需要側の打ち手の方が、即効性があり経済性が高いものが相応にあると思います。旧一電はこうした需要側のサービスやソリューションには不得手だったり、スピード感が遅いので、むしろ新電力に事業機会、勝負のしどころがどんどん出てきているのではないかと思います。そう言う意味で、今回の結果を喜ぶ要素もあると思いますし、一方でベースの稼ぎどころであるビジネスモデル的にはマイナス影響も出てしまう。新電力業界で、今回の結果を両手を上げて喜んでいると言う方はいらっしゃるのでしょうか。

小嶋:私も今回の結果をニュースで見たときの第一声は、蓄電池の世界が来るのでDRに力を入れよう、と言うことでした。それで社内のDRの部隊もやるぞ、と勢いがついています。ですが、私たちはアセットを持たずにゼロから新電力事業を作ってきましたが、このようなプレイヤーが今後出てこなくなるのは寂しいし、これでこの市場が本当にいいのか、という思いもあります。そこは新電力の一人として声を上げなければならない面もあるだろうと思い、要望書なども出しています。アセットを持たない新電力事業者としては業績や営業が厳しいのも事実、逆にDR行けると思ったのも事実、両方の受け止めがあります。

松尾:過去に新電力にいるときに、容量市場が今すぐ入ったらどうなるのかを実際に計算してみたところとても耐えられないインパクトで、実はEVを使ったDRをやろうと思ったのもこれがきっかけです。そう言う意味では、容量市場のインパクトを感じるのが遅かったのか早かったのかの違いでしかないと思いますので、当時からこれは必要だからと国がもっと説明して欲しかったなとは思いますね。直面する課題として業界全体として認識がされていなかっただろうなと思います。

U3I:これで新電力がいなくなってしまうのはもったいないよねと言うのは本当にそう思います。これで旧態依然の市場に戻ってしまうのも残念ですし。マーケットの環境が整っていて、マーケット全体としてフリーライドを許容しているかどうかは制度や環境の話としてありますが、それとは別に、顧客にとって最適な電気を調達しますと言うことは徹底的に顧客起点のビジネスではあると思います。米国の流動化している市場などでは、卸マーケット価格はパススルーしていて、最適な調達を代行すると言う顧客サイドに立ったビジネスとして成り立っています。今回のように制度が変わったので、新しい制度環境下で一番安い価格を提供しますと言う視点はあると思います。容量市場も不等率が効きますので、ピーク削減のためのDRやユーザーの組み合わせなどの新しい容量市場環境下での最適化と言う議論があってもいいのではないかと思います。今まで暗黙的にやってきた事業者が、事業環境の変化に対応できるところとそうでないところで差が出てくる、今こそ新電力の真価が問われるのではないでしょうか。新電力としては事業機会として捉えた方が、結果健全なのだろうと思います。業界としてそう言う方向でまとめてリードしてもらいたいですね。

小嶋:Looop自体がこれまでも、制度や市場の変革に迅速に合わせることで成長してきていますので、今回も前向きに捉えたいですね。

U3I:これまでの状態が業界としてサステナブルではなかったということもありますので、今回の市場変化を前向きに捉えて欲しいですね。もちろんそうした綺麗事で全てを語れない事業者の立場があることは重々承知していますが。市場全体として前向きな方向に行って欲しいですね。

松尾:新電力にとっては、揺り戻しがあまりにも大きすぎるんです。小嶋さんも営業利益の数倍のインパクトと書かれていましたが、変化があまりにも激しい。小売事業者の経営として本当にDRメインに移行できるのかと言うと、相当な苦難を強いられることになります。もちろんそれにより真価を問われるのもあるとは思いますが、制度の導入が遅れたことによる苦しさと言うのも現実的にあるのだろうと思います。

小嶋:2016年の自由化では新規参入を増やす方向で、いろいろなプレイヤーの参入が進みましたが、それによって電気の供給という意味ではプロではない会社もたくさん増えました。分散型電源が増えて電源開発の予見性が担保できない状況も真実だけど、だからと言って多くの新電力がプロじゃないから退出してくださいというのは2016年の方向性からのギャップからするとどうかとは思う人はいると思います。サービスの供給者と安定供給を考える人を区分けするなどでもいいかもしれませんし、どう両立させるかをもっと考えるべきかなと思います。分散型電源の下での安定供給という旧一電でも難しい課題をプロじゃない人にも課すと言うのは、2016年の文脈からするとどうなのでしょうか、と言う話は以前にもさせていただいたことがあります。

戸田:今後限界費用ゼロの再エネがどれだけ入ってくるかわからない、すなわち稼働率が見通せない環境になりますから、電源に誰も新規投資できない状況もあり得ます。さらに首相が宣言した2050年カーボンニュートラルを実現するとなると、今からガス火力発電所を建設しても、2050年には畳まなければならないことになりますから、尚更です。そのような状況では、卸電力も今の送配電ネットワークのように公共財に位置づけて市場参加者全体で支える、小売競争は専らサービスによる差別化の競争、という世界も考えられるのではないかと思っています。

U3I:本日はありがとうございました。引き続きこうした議論はしていきたいですね。制度設計はやはり難しいですし、特に可視化が難しい安定供給をどう制度として担保していくのかという課題は、いきなり正解がすぐ出るというよりは、議論を重ねる必要があると思います。しかし今回の容量市場に対しては、メディアも含めて建設的な議論や立場の違いを超えた会話が少ないという課題意識があります。そういう意味で、今回お三方にお集まりいただいたのは非常にありがたかったですし、このような建設的な議論ができる場をU3イノベーションズとしても提供していきたいなと思います。今回のテーマに対する反響を見て引き続き議論させていただいたり、また別のテーマでも気軽に話しながら、あるべき電力システムのあり方を考えていきたいと思います。委員会とかのオフィシャルな場ではない場所で、いろいろな方が個人的に見通している将来像なども意見交換ができると良いですね。