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Utility3.0のキーワードは「地域」

電力ネットワークが直面する課題は、災害の激甚化と頻発に対するレジリエンス強化、再生可能エネルギーの大量導入への対応、人口減少・過疎化に伴う需要・収入減、高経年化対策など多岐にわたります。

社会の負担するコストを抑制しつつ、こうした変化に対応するためには、まず、既存の系統の活用を進めるとともに、新たな技術を適切に取り込む規制の改正やインセンティブ付与等の仕組みづくりが必要になるでしょう。

こうした情勢変化に加えてテクノロジーの進展もあり、電力ネットワークの新たなビジネス展開が期待されています。

経済産業省が昨年秋に立ち上げた「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」の委員を共に務める、大阪大学大学院工学研究科招聘教授の西村陽氏と、U3イノベーションズの竹内が、次世代の電力ネットワークの現状や当面の課題、参考となる海外事例、それぞれの描く“Utility3.0 ”について議論しました。前半・後半の2回に分けてお届けします。

次世代ネットワークのコンセプトは”双方向化”

竹内:まず最初に伺いたいのは、次世代の電力ネットワークを考える上で、核となるコンセプトについてです。

西村:それは一言で言って、ネットワークの双方向化だと思っています。電圧の高いところから低いところへという従来の考え方の転換。オランダのセミナーで会った専門家が「すべての建築物はフレキシビリティになる」と発言したのを聞いて、まさにそうだなと思いました。

各国で太陽光や風力といった変動性の再エネ(VRE)の大量導入が進む中、需要側のフレキシビリティを活用しないと系統の安定性を維持するのは無理です。今までは、ひたすら系統と配電能力をあげるための投資をしてきたわけですが、限界があります。電力ユーザーが所有する蓄電池やヒートポンプ給湯機、空調機器など、あらゆる需要側資源を活用して、みんなで系統を支え合うのが、来るべき世界です。みんなで寄ってたかって安定性を維持する世界、とでもいえばよいでしょうか。もう少しきれいに表現すれば、電力ネットワークが、ハイブリッドなグリッド(需要側資源を取り込んだグリッド)になっていくわけです。

竹内:その点は全く同じ意見です。これまでの「供給」と「負荷」といったモノトーンで語られるのではなく、グリッドの参加者が多様になり、そのコントロールが必要になりますよね。これまで「電気を運び届ける」という単調な役割しか求められてこなかったネットワークが、双方向性を得てハイブリッドになっていくわけですね。欧州では既に様々な事業展開がみられますね。

西村:そうですね。欧州の状況としては、当然のことながらまず大規模需要家の資源からグリッドに取り込まれていきました。それが今、SonnenやTada、Voltalisのような中小需要のフレキシビリティを活用するようなプレーヤーが注目されるようになっています。

 欧州では風力発電が大量に導入されていますが、この変動の多い電源を大量に受け入れて系統を維持するには、需要カーブも変わってもらうしかないわけです。共産主義的にというか強制的なコントロールで変化させるか、市場を活用して変化させるかの二者択一です。ただやはり市場を活用して変化させる手法の方が望ましいので、いま電力事業のベンチャーは、この領域に取り組むプレーヤーとアナリティクスプレーヤーが二大グループとなっているわけです。例えば石油系からはシェルが活発な動きを見せていますし、TOTALもこの領域に注目しています。Sonnenをシェルが買収したのは象徴的な出来事だといえるでしょう。系統内の電力資源の最適化利用に取り組む英国のPicloや豪州のGreenSyncも同様です。みな、新しいエネルギー産業を目指すベンチャーは欧州を目指しているといえるでしょう。

竹内:そうなんですよね。やはり欧州は市場化で先行していることもあって、ベンチャー企業の層が厚くて、活発です。大手企業も積極的にどんどん投資していて、悪く言うと手あたり次第にも見えるくらいです。私たちU3イノベーションズは、日本でもエネルギー産業のエコシステムを厚くしたいと思って創業したので、早く追いつきたいと思っています。

西村:ただ、変化は確実に起きていますよね。「見える化」、解析、プラットフォームの再構築という議論に踏み込んだという意味で、ご一緒している「次世代プラットフォーム研究会」は従来の電気事業の視点とは全く異なる視点を持った画期的な研究会だと思っています。100年の電力の歴史を変える研究会といったら言い過ぎかもしれませんが、実際に、託送料金の設計や計量法の見直しなど具体化な検討がここから進んでいます。

竹内:他の委員会とは雰囲気も違いましたね(笑)。規制当局と政策の要請に従ってエネルギービジネスは動くので、規制が守るべき価値も変わってきていることを前提に、今後も議論が活発になること、検討が具体的に進むことに期待したいと思います。

西村:そうした制度・政策の話だけでなく、欧州では、大手企業とベンチャー企業が連携して新しいエネルギー産業を創ろうとしていて、そこは日本も見習うべきだと思っています。日本はアンシャンレジームがかなり上手く機能してきたし、その上で相対的に再エネにとってあまり適地ではありません。こうした状況の違いやビハインドを背負いながら、新しい産業創出へ向かうのは、そりゃしんどいことですよ。

大手企業とベンチャーの連携には何が必要か

竹内:エネルギー産業は、市場環境にあわせてローカライズしなければいけませんし、うまく先行事例を取り入れてやっていければよいわけですので、焦る必要はないと思っています。いまご指摘いただいたように、大手企業とベンチャー企業の連携が一つのカギだと思っているのですが、それを加速させるには何が必要だと思いますか?

西村:大手企業がまずマインドセットを変えることじゃないかなぁ。今の関係者の中にも、本当にコストを下げたいと思っている人、本当に顧客価値を創りたいと持っている人、こうした地に足の着いた人たちが多くいます。特に現場、お客さまに近いところに多い。賢い人も多いし、勉強熱心なので、こうした動きが経営全体の意思決定にちゃんと反映されるようになれば変わると思います。規制側のエネ庁も、同じように問題意識をもって海外のベンチャー企業と頻繁にあって勉強しています。

竹内:そうですね。今まで提供していた価値ではないものを提供していかなければ生き残れないという意識を持つこと、そして、全部自分でやるのではなく適切なパートナーと組めばよい、という意識も徐々に広がってきています。そうした好事例も増えているように思います。

西村:まさにそうです。海外ベンチャーもいきなり日本市場に参入するのは難しいので、国内パートナーが必要です。日本市場はどんどん変容するでしょうから、リスクをマネジメントできるパートナーが必要です。

竹内:そうしたアライアンスの中で、西村さんが「これは好事例だ」と思うのは?

西村:東北電力とドイツのNext Kraftwerkeは良い事例だなと思いました。Next Kraftwerkeは、もともとはドイツの自治体が保有するごみ発電の運転最適化を支援していました。同社は、今や欧州最大のVPPオペレーターのひとつであり、欧州で8,000件を超える独立した自然エネルギー発電所を集約し、VPP(仮想発電所)として価値を提供しています。2009年に設立され、分散するリソースの遠隔制御や設備ごとの発電 量測定や予測に知見を有しています。東北地域には、実は震災以降政府の補助金でつけた蓄電池が大量にあって、でも各自治体などはこれをうまく活用できてはいませんでした。東北電力さんとしては、自治体向けのソリューションとしてVPPをやりたいというニーズがあって、これがNext Kraftwerke とマッチしたのだと思います。現状で言えば、Next Kraftwerke のソリューションは、電源Ⅰ´以外は要件を満たしていませんが、段階的にローカライズが進んでいくと思います。

(後半に続く)