談論風発

【緊急企画】コロナ・ウイルスで、エネルギー・環境問題はどう動く? U3イノベーションズとエネルギー・アナリスト大場紀章さんが考えるビヨンド・コロナ 第3回 MobilityとUtilityの融合は進むか−EVシフトを考える− ③

Mobilityセクターでの電化が進み「バッテリーで動く車両」が増えれば、Utilityにとっては「動く蓄電設備」を多く手にすることになり、災害対策や再生可能エネルギーの変動性の吸収などに強みを発揮すると期待されています。しかしながら、必要性があれば期待される産業間融合が進むわけではありません。バッテリーの技術開発やシェアリングの一工夫、規制緩和、サービス事業者の登場など、必要とされる様々な要素について、U3イノベーションズのメンバーと、エネルギーアナリストの大場紀章さんとで議論した対談連載の最終回です!

U3:ではここからはMobilityとUtilityの融合を進めるために必要な要素を考えていきたいと思います。一つ目の要素として、バッテリーの技術開発の動向についてはどう見ていますか?

大場:まず、蓄電池マーケットにおいては、自動車用のバッテリーの比率が圧倒的に高いので、製造事業者からすると、車用途がどう動くかが最も重要です。価格破壊や技術革新がどこから起こるかといえば車用途からしか起きえないんじゃないかとすら思います。

U3:それはそうですよね。電力消費者の電力量計から宅内側、いわゆるビハインド・ザ・メーターで活用される定置用蓄電池の改善が進むとしても、その開発原資は自動車用のバッテリーから回してもらうということになるのでしょうね。

その流れで、各論にはなりますが、今年2月、テスラとCATLがリチウムイオン電池供給に関する提携を結びましたね。リチウムイオン電池だけでなく、テスラの需要に応じて、リン酸鉄リチウムや、三元系に限らず供給していくとも報道されていますが、ここで、サイクル寿命が高いリン酸鉄リチウムの大きな需要が確保できたことは大きいなと思っています。この提携については大場さんはどうご覧になっていますか?

大場:ご指摘の通り、リン酸鉄リチウムはサイクル寿命は長いものの、重量がかさむのが欠点です。そのため、日本はかつて捨てた選択肢ですが、中国ではEVバスやEVトラックに利用されてきました。テスラというのは規格外というか、常識にとらわれない戦略を描くのが得意なので、個人所有だけどある種トラックみたいなものを出すのもアリなんでしょう。テスラは中国向けのモデル3に、 「ミリオン・マイル」と名付ける長寿命バッテリーを搭載すると報じられています。Million mileって、160万kmですよ。ガソリン自動車の平均走行距離は11万㎞とされていますので、15倍くらいです。普通の自家用車の年間走行距離は1~2万㎞ですから、100年乗ってやっと達成できる距離です(笑)。自動車産業の方と話すと、160万㎞も走ったら、躯体や足回りがもたない、という声が聞こえます。

U3:確かにこれまでの自家用車と同じように考えたら過剰なスペックなんでしょうが、ガラケーからスマホになって、最初は同じ「電話」と考えられていたのに、通話から通信に期待される機能が移行したことと同様、何か全く新しいビジネスモデルができるのかもしれませんね。自動運転を付随させて、オーナーが使ってない時間は勝手に動き回って金を稼いでくるといったような(笑)。

大場:テスラのビジョンは既にそのあたりことも入っています。そのビジョンが実現し、テスラにきちんとした追従者が現れてくればmobilityが一気に変わるかもしれません。100年前、馬から自動車に変わったような劇的な変化が起きるかもしれませんよね。出てくればの話ですが。

U3;自家用車の空き時間が有効活用されるような世界では、これを取り仕切るMobility事業者も登場していると思います。Utilityが自家用車のオーナー一人ひとりと調整するのは難しいですが、自家用車オーナーを束ねるMobility事業者が出てきたら、Utilityは、このMobility事業者と協調して、業種横断的な新たな社会インフラ作りを進めていくことになると思います。

大場:そうした世の中が見え始めただけに、既にEV技術はナショナルセキュリティの問題と捉える向きも出てきています。例えばEUでは「モビリティは主権の問題だ( “Mobility is a matter of sovereignty” )」(仏経済財務大臣ブルーノ・ル・メールの発言)として、中国製のバッテリー輸入に規制をかける考えです。保護貿易と言われようが、EVが究極的にはUtilityと融合しインフラになり得るという意識なのだろうと思います。製造業の国内回帰の価値も加わってくると、コスト競争も一筋縄ではいかないのかもしれません。

U3:なるほど。主権の問題と、はっきりと認識するあたりはフランスらしいですね。安倍総理も経済財政諮問会議で、製造業のサプライチェーンを国内に取り戻すと発言されました。コロナ・ショックで、マスクも医薬品も中国からの供給が途絶するとお手上げになる、製造業の他国流出の弊害が国民の目に明らかになったことを受けての発言だと思います。第一生命経済研究所が消費者に対して行ったアンケート調査で、国内生産比率を高めるべきという声が消費者からも高まっているという結果が出ていました。特に女性でその比率が高いようですね。

私はもともと、エネルギー戦略とエネルギー技術戦略は分けて考えた方が良いという意識が強くありました。FITが導入された時にも、わが国の太陽光発電産業の育成といった目標も乗っけられて議論されました。ただこうして「この政策はいろんな効果があります」というと、政策の検証・分析がしづらくなります。

とはいえ、技術戦略も重要だということをこのコロナで実感したことも確かです。製造業の国内回帰に過度に舵を切ると、イノベーティブではないゾンビ企業が生き延びてしまったり、内外価格差が埋まらなければ日本の消費者が損し続けるということになるのでバランスが重要ですが、少なくともエネルギーの生産技術が主権の問題という感覚は、わが国ではもう少し強く意識されるべきだとも思います。ちなみに、中国のEVメーカーが日本に進出してくるといったようなことはあり得るのでしょうか?

大場:他国の自動車市場にメーカーが参入するときにカギの一つはメンテナンスを含むサービス網です。ちゃんと売るためには代理店を作り、修理用部品の供給が恒久的にできると信じられるネットワークを確立してユーザーに安心して受け入れてもらうことが前提なんです。現代自動車(ヒュンダイ自動車)が日本の乗用車市場から撤退したように、車を作れれば市場に参入できるかといえばそうではないのが難しいところで、中国のEVメーカーがすぐに日本市場に進出してくるかというと、そうではないかもしれません。ただし、バスなど業務用車両で既に一部導入されはじめています。

U3:確かに、BYDのEVバスが京都や沖縄で走っていますし、百度とソフトバンクが日本への導入を検討している自動運転EVバスは厦門金龍というバスメーカー製だと聞きました。彼らは海外輸出を意識した開発をしているそうですが、日本の市場にはそれほど興味持たれていないとも聞きますね。寂しいですが。

今後EV活用に関する全体コストを引き下げるために、メンテナンス網のシェアリングといいますか、メーカーの壁を超えたメンテナンス網ができないかとも考えていたのですが、販売戦略そのものにも通じてくるので難しいところですね。離島や山間地など、不便なところから面白い融合が起きてくるのではないかと期待しています。

【コロナによる社会変容とモビリティ】

U3:コロナの前はシェアリングが急速に進みつつありましたし、進むと期待されました。デジタル化の進歩や人々の価値観の変化から、小さな余剰がシェアされるのは必然であり、気候変動対策などの観点から必要であると私たちも考えていました。その方向性が大きく変わってしまうとは思わないのですが、コロナによってシェアリングが難しくなった、工夫を必要とするようになったことも確かです。コロナによる社会変容とMobilityについてもお話をして行きたいと思います。

大場:そうですね。EV化に影響を与える要素として、政策支援(補助金)と規制、原油価格の動向がよく指摘されますが、社会変容も大きな要素です。乗り合いやシェアを避ける傾向が、初期投資が高くランニングが安いEVの経済性を削ぐので、コロナの影響は総じてマイナスに作用すると見ています。

U3:その点は私たちも同様の理解です。ただ、コロナによる常識のディスラプトが起きたプラス面もあると思っています。例えば今までタクシーが有償でモノを運ぶということは認められていなかったわけですが、コロナで旅客需要が激減したこと、加えて飲食配送のニーズは高まっていたことを受けて、国土交通省が特例措置としてこれを認めました。withコロナの期間がある程度長期化することも考えると、こうしたニューノーマルが積みあがっていく可能性はあると思っています。

大場:タクシーの有償貨物運送は、北海道などでは以前から行われていましたが、東京はあまりに便利なので新しいチャレンジが入り込む隙がなかったんですよね。東京には「足りない」が足りない。だからイノベーションが起きにくい。MaaS発祥の北欧なんかも不便だったから進んだのだろうと思います。

他にも、いままで宅急便のドローン配送の検討でとても苦労していた受領印の獲得ですが、このコロナで人と人との接触を減らそうということで受領印が省略されるようになりました。「なんだ、要らないんじゃん」となった今までの慣習や規制はたくさんありますよね。

U3:本当にそうですね。規制改革推進会議の委員を拝命していることもあってその点は思うところがあり、あちこちに寄稿しているのですが、これを機に様々な規制や慣習を見直し、デジタル化を徹底して進めなければと強く思っています。

話をモビリティ変革に戻すと、先ほどの話と若干重複しますが、イニシャルが高く、ランニングが安い電気自動車は、高稼働率維の持が必須です。それができるのは、モビリティサービス事業者だと思っています。充電スタンドなどのインフラ整備という観点からは、マス顧客である個々の自家用車オーナーを想定するよりも、特定のモビリティサービス事業者と二人三脚でインフラ整備した方が効率的です。今後の電気自動車を考えるにあたり、B2Cの自家用車両よりも、B2Bの業務用車両がメインになると考えているのですが、その点大場さんのお考えはいかがでしょうか?

大場:テスラの様な特殊例を除いて、EVで経済性が出せるのはB2Bからというのはそうだと思うのですが、一方メーカー側の視点に立って考えると、自家用車に比べて業務用の輸送車両ってたくさん売れるものではないので、イノベーションを起こしてユーザーにメリットがあっても「メーカー」の論理としては儲からないんです。先々の販売台数の需要が見込めないとメーカーは研究開発投資しづらい。だから、トラックとかバスって昔から全然変わらないんです。それでも、豊田章男社長が2018年のCESで自動車を作る企業からモビリティというサービスを提供する会社に変わると宣言してe-Palleteという多目的EVを開発をしたり、日野自動車が物流事業に参入して電動車両のプラットフォームの開発をしているように、自動車メーカーも変わりつつありますが。

U3:なるほど。そもそもEVのエコノミクスがスケールするには、1回の輸送でたくさんの人を乗せる必要があって、EVバスや少なくともライドシェア、乗り合いなど高い稼働率を確保できるビジネスモデルから入っていく必要があるとを考えていましたが、メーカー側からすると、魅力的なフィールドではそもそもないんですね。しかもこのコロナで、知らない人と一緒に乗ることや共有することへの抵抗感が当分は続く。とはいえ、今更マイカー回帰になるかというとそうではないので、シェアリングに一工夫がいるということになるのだろうと思います。

大場:そうですね。でもシェアリングの一工夫というのがパッとは思いつかないですね。いまリモートワーク花盛りですが、実際にはデスクワークではないのでリモートワークのしようがない人も非常に多いわけです。地方の中核都市から工場に通勤しているような方たちが、バス利用からマイカー出勤になって、「コロナ渋滞」が発生するかもしれません。オフィスワーク中心の東京のような都市と、それ以外の地域では、働き方も移動の意味も大きく違うことを考えないといけないですね。

U3:移動というものが大きく見直されたとはいえ、まだら模様ですよね。ただ、リモートワークが拡大すれば、ワーケーション(*workとvacationを組み合わせた造語)も普及するでしょうし、時々は出勤するということであれば都会に住まざるを得ないにしても駅からの距離が少々離れたって、最寄り駅に急行が停まらなくたって、問題無いわけですよね。インフラ整備にかかる時間を考えれば、ライフスタイルの変化をできるだけ先読みして、むしろライフスタイルの変化を作り出していくという気持ちで考えなければなりませんよね。「シン・ニホン」著者の安宅さんが仰るように、開疎化すればやはり電力需要は増加するでしょうし。

経済産業省の「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」などにも参加していますので、そうした場も活用しながらMobilityとUtilityの融合を考えていきたいと思います。頭を柔らかくして、複数のシナリオを描く必要があると思うので、また時々こうしてディスカッションさせてください。今回のシリーズ対談、本当にありがとうございました!

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