特別企画

第2回「再エネ主力電源化に向けた挑戦者たち」座談会

自然電力株式会社 代表取締役 磯野 謙様
千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役 馬上 丈司様
株式会社エネファント 代表取締役 磯﨑 顕三様
(以下、敬称略)

<各位のプロフィール>

磯野 謙 Ken Isono
自然電力株式会社 代表取締役
大学卒業後、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月自然電力(株)を設立し、代表取締役に就任。
慶應義塾大学環境情報学部卒業。
コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。

馬上 丈司 Takeshi Magami
千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役
1983年生まれ。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーの政策立案や地域振興事業に携わっている。

磯﨑 顕三 Kenzo Isozaki
株式会社エネファント 代表取締役
1989年生まれ、岐阜県多治見市育ち。2010年に愛知大学を中退。太陽の巨大なエネルギーを有効活用できないかと考え、2011年(株)エネファントを創業。地域のエネルギーを通じた、地域課題解決型の事業を岐阜県多治見市を中心に展開している。


竹内:2050年のカーボンニュートラルを目指すという流れが国際的にも「当たり前」になり、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の拡大が急がれています。そのこと自体は「追い風」ではあるものの、産業や市場のあるべき姿を踏まえて議論をしなければ絵に描いた餅になりますし、再エネ至上主義を振りかざしても地域社会に受け入れられるものではないでしょう。

地域社会への貢献を本気で考える事業者の方が市場で評価され、そうした事業者の方が増えていくことが必要です。この座談会企画では、第1回に発電事業・小売事業に関わる皆様に集まっていただき、主にコスト低減や産業化と言った観点から議論しました。第2回となる今日は、地域社会と再エネを議論します。地域に根差して事業をされている皆様のお話をぜひ伺いたいと思います。

<各社の取り組み紹介>

磯崎:岐阜県多治見市で「地域エネルギー会社」を経営しています。僕が大切にしているキーワードは、「創ると使う」を最短で繋げる、ということです。最短で、というのは距離と時間の軸で繋ぎます。

今年で創業10年になりますが、創業の思いは、太陽から地球に送られてくる莫大なエネルギーを、地域のエネルギーとして最適に活用することです。ただ、最適に活用するには、地域で設備を販売するだけで済む話ではありません。エネルギー事業は創って届け、そして使うところまで考えないといけないと思っています。

今目指しているのは、僕の住む多治見市で、日本で一番電気代の安い地域を作ることです。どう実現するかの手法として考えたのが、需給一体管理です。社員17人、兼業副業含めて21人のメンバーで取り組んでいます。

住宅用PV販売から始めて、今はカーポート・駐車場に着目しています。この地域は、日本の地方都市のご多分に漏れず駐車場が多いのですが、屋根が無いところも多い。

そこで、カーポート・駐車場の屋根にPVを設置して、EVの基礎充電を行ったり、非常時に地域のレジリエンス強化のために使うというビジネスを考え、昨年4台用のカーポートを180件契約しました。また、日本一電気代の安い暮らしを実現した「フリエネ」という2年間電気代を無料にするサービスを開始しました。需給一体のエネルギー管理と、人が集まれば値段が上がる土地代で収益を確保しています。

他に、地元企業に就職したら無料でEVが利用できるというプロモーションも行っています。地元で丁寧に「創る」と「使う」を設計していくことが僕たちの役割だと思っていますが、やはり自分たちだけでできるものではありません。中部電力さんなど、地域の電力会社とも協働していきたいと思っています。

磯野:弊社も今年で創業10年目になります。東日本大震災後に3名で起業しました。発電所を作り、他社からの委託を受けて運営管理を担う案件からスタートしましたが、現在は自ら設備を持って運用することも増えてきました。グループとして、約1,000MWの開発実績、完工実績も約600MW、北海道から九州まで100件以上の実績があります。

自分たちの価値は、地域の方達とのコミュニケーションを大切にする一方スピード感も持ちつつ発電所の建設を進めることと、信用力のある企業とパートナーシップを組むことで実現できると思っており、世界有数の風力・太陽光の開発・EPC(設計・調達・建設)企業であるドイツのjuwi AGとのジョイント・ベンチャーの創設をはじめとして、ケネディクスさんとのファンド創設、東京ガスさんとの資本業務提携など多様な協業を行っています。

グローバルとローカルの両軸を重視しています。世界6カ国で事業展開しており、一方国内では、エネルギーのみならず通信や上下水道のアップデートについても、自治体などと共同で取り組んでいます。例えば長野県の小布施町では、地元ケーブルテレビ会社と小布施町とともに、合弁会社を設立しました。自治体のインフラは、これまでは、領域ごとに主管が分かれた管理がされていることが多いです。今後は地域で横断的にインフラを分析しつつ自治体と協力しながら、民間もそれぞれの専門性を提供しつつ、アップデートすることに貢献していきたいと思っています。

我々は最終的に地域に貢献するインフラでありたいと思っています。この一環として、創業時から、発電所の売上の1%を地域に還元していますが、再エネの課題は他の電源と比べて大きな雇用を生まないこと。どうやったら人材の育成という点で地域に貢献できるかを考え、地元農家さんと協働した商品開発や、地域で新規事業を立ち上げられる人材の育成にもチャレンジしようとしています。

馬上:弊社は自分が大学院を修了し、講師をしているときに創業しました。2012年のことです。

農業×再エネが事業のメインコンセプトですが、自然エネルギーについては全般的に取り組んできており、小水力やバイオマス、地熱などにも関わってきました。

現在はソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)がメインで、地域における主産業としての農業×再エネ事業に取り組んでいます。エネルギーと食料という人間にとってクリティカルな財を、持続的に確保可能な地域を作っていくことを目指しています。

それに、実は、農業もかなり化石燃料を消費する産業です。国内の農業は投入エネルギーの約95%が化石燃料の直接燃焼です。電気が5%ですが、この電気も8割近くが化石燃料依存だとすると、ほぼ100%化石燃料に頼っているわけで、化石燃料の輸入が途絶えると、農地があっても農業が成立しない状況です。これは危機的状況です。これを変えたいと思い、現場での実践を3年前から始めました。千葉エコ・エネルギーも農業法人格を取得して、次世代農業モデルの提案をしています。具体的には、太陽光発電との共存を目指しています。ポテンシャルとしてはというところですが、国土の約15%を占める農地のうち、一部でも発電事業に使えれば、エネルギー供給力の向上に寄与できます。

2030年に再エネ比率を40%以上にするのであれば、短期的に大量導入可能な太陽光発電が重要になってきます。エネルギー自体を住民に感じてもらえることも大事だと思っていますが、そのためにもソーラーシェアリングは良いんですよね。単なる太陽光発電設備を何度も見に行こうとは思わないじゃないですか。ただ、その下で作物を育てていると、皆さんがずっと興味・関心を持ってくださいます。コロナで中断していますが、農業体験と合わせて、電化農業やEVなどにも触れてもらう取り組みをやったりしています。食料とエネルギーを一体的に供給することで、地域の持続可能性を高めていきたい、農業を社会のエネルギーを生み出す産業にしていきたい、と考えています。

<エネルギー事業にとっての「地域」とは>

竹内:皆さんそれぞれ足元がしっかりしているといいますか、地域社会に根を張って成長しておられるのだと思いました。ただ、一般的にエネルギーの「地産地消」など「地域」という言葉はよく使われるものの、地域社会の定義がばらばらの状態で話していることも多くあると思っています。例えばですが、地域の小水力発電と、国内の大規模水力と、何がどう違うのかというところから議論しているのを見たことはありません。

皆さんのおっしゃる「地域」は、エネルギーの消費者というだけでなく、エネルギーを生み出す供給者としてもひと固まりで考えられているのかなと感じましたが、今日のメインテーマである地域社会におけるエネルギー事業を考えるにあたり、最初に、「地域」を皆さんがどう定義しているかからお伺いしたいと思います。

磯崎:そう言われたら考えたことはなかったです。自分たちの街が「地域」と考えていましたが、感覚的にとらえていたところが大きいように思います。みんなが集まれる範囲が「地域社会」かなぁ・・・。最小単位で成り立つために集まれる生活エリアという捉え方をしていたのかもしれません。

竹内:地元としての多治見市が直面する課題を何とかしたいという思いがまずあって事業をされているので、改めて考える以前に持っているエリアが既にあったのでしょうね。

馬上:自分のイメージは、人口1万人くらいのコミュニティですね。この規模ですと、役場の人も議員さんも首長さんも、お互いの顔を把握できます。ただ面白いのは、人口だけでは語れないところです。例えば豊洲のタワーマンション数棟で住人の数が1万人いても、これはコミュニティとしては捉えにくいと思っています。一方で、地方の集合団地ならば自治組織もちゃんとあって顔が見えてコミュニティとして成り立っている場合もあるかもしれません。単純な人口規模だけでない他の要素、人間関係の有無などが大きく関わっているのではないでしょうか。

竹内:タワーマンションは、まさに「一つ屋根の下」に住んでいるわけですし、かなり運命共同体でもありますが、だからと言って「地域」として成立するかというとそうではないかもしれないというのは面白いですね。

磯野:「地域」という言葉を定義するのは難しいですよね。ただ、自分が思うのは、自らが主体性を持てる範囲。1万人でもそうなるかもしれないし、場合によっては100人程度が限度というケースもあるでしょう。日本的な内と外の概念があるので、その内というところかもしれません。エネルギー・インフラとしての最適な範囲・規模感はあると思っていて、そこは模索中です。

竹内:まさにこの質問の出口は、エネルギー・インフラとしての最適規模についての議論をしたかったことにあります。その点についてもう少しお聞かせいただけますか?

磯崎:事業として、成り立たせるには市場が必要です。多治見市で電気代として支払われる総額が年間だいたい100億円程度の規模です。エネルギー・インフラには長期に大きな投資が必要になるため、一定程度市場として規模は必要で、多治見市の隣の自治体、ガス・ガソリンも含めてトータル1,000億円規模くらいの市場をターゲットとして、我々は今やっています。

竹内:確かに、事業という観点から必要な規模という視点はとても大事ですよね。もう一つ、磯野さんのおっしゃった「自分が主体性を持てる範囲」というのも、これからの地域社会とそこにおけるエネルギー産業を考える上でとても大切なポイントだと思う。地域社会のエネルギー転換についてご相談を頂くことも多いんですが、単に再エネを地域内に増やしたいといったお話も多いんです。ただ、住民がそれで幸せになるか、地域とのかかわりを感じられるかといえば私は疑問を持っています。地域とのかかわりにおける住人の主体性をどう考えておられるかもう少しコメントを頂けますか?

磯野:主体性というものがどの程度のものかにもよりますし、難しい議論ですが、エネルギーによらず、例えばクラフトビールが人気ということも同じ流れと思っています。中央集権的なスキームが高い効率性や確実性・安全性の観点から利点が多いという時期がずっと続いてきたわけですが、今はテクノロジーによって一部分散化した方が良い場合が出てきたわけです。

誰か一人が主体としてやります、後はみんなその利用者ですというわけにはいかない状態も出てきたわけです。

ただ、分散化しても担い手は必要です。例えば、単に再エネを作ればいいということでなく、地域に根差した担い手が育ち、文化ができることが重要だと考えています。自分たちの地域や村がそういうものを大事にするんだという考え方と表現できるかもしれません。小布施町もそうした意識が強いところで、地域に誇りをもっています。自分たちの「らしさ」はなんだろうということを考え続けているからこそ、インフラも自ら持とう、良くしていこうという取り組みにつながっています。自然電力としては洋上・陸上風力発電など大規模電源の開発もしていますが、それは再エネではあっても20世紀型です。地域が自ら関わる座組みを作れるか。それがエネルギーの未来につながると思っています。

竹内:確かに、再エネだったら分散型、地産地消にマッチするというあまりに雑駁な表現をされることがありますが、風力発電は基本的には大規模電源の代替の意義が強いですよね。

<なぜ地域が自ら関わる座組みを目指すのか>

磯野:地域が自ら関わる座組みがないと、中央と地域が対立構造になってしまうんですよね。再エネ比率10〜20%であれば中央集権で大規模電源を開発すればできると思うのですが、40~50%となると、地域が自ら取り組まないと実現できません。その規模感だとどうしても景観問題にもなります。地域でよそ者が勝手に再エネを開発していくのではなく、地域が自ら開発して管理していくという仕組みに変えないといけない。

今後は、エネルギーだけでなく、道路など含めてインフラ全体を考えていきたいと思っています。小布施は面白いですよ(笑)。町が主導して、インフラをこうしていきたいという話が自発的にどんどん出てくるんです。機能面だけでインフラを考えるのではなく、生活や文化を考えていきたいと思っています。

馬上:エネルギーインフラも、起源をたどれば、各地域で作られたわけですよね。大正時代中期には全国で約800の電力会社がありましたが、地域で水力発電所を作り、それを核に1村1電力会社という感じです。その当時は、現在は地元の人がお金を出し合って、地元に電力インフラを作ったわけです。自分たちのインフラは自分たちで作るという矜持が無くなったのか、地域社会が貧しくなったのかはわかりませんが、自分たちのインフラを自分たちの手に取り戻すということが再びできるようになった今、主体性をもって取り組む地域とそうでない地域の差は大きくなるのではないかと思っています。

例えば東北地域を回っていると、地域力の高さを感じることが多くあります。例えば、地元財閥が強くてフランチャイズビジネスの親経営会社もそういう地元の会社です。地域エリートがいて、地域のために活躍するフィールドがある。ただ、全国見渡すとそういう地域ばかりではありません。他地域から人とお金を投じる仕組みを作るのか、もっと広域的に取り組む必要もあるかもしれません。極論を言えば、畳まなければならない地域も出てくると思います。

<どんな地域が生き残るのか>

竹内:地域社会の中で生き残っていくところ、成功事例を作るところに皆様は今まさに取り組んでおられるのだと思います。生き残る地域が持つ要件や特色はなんでしょうか?

磯野:まず地域として意思があることが大事だと思います。特に重要なのが、民間主導になっていることですね。もちろん初期段階においては、自治体主導というケースもありますが、その場合は首長だけが頑張っても難しく、その下の役所の部長レベル、担当レベルなど三階層くらい下までビジョンを共有し、ちゃんと意思を持っているということが必要です。そうしないと民間が踏み込めません。

いま地方の課題は、地域に面白い仕事が無いということなんですよ。組織としても昔ながらの年功序列の風潮が色濃く残っていたりします。若くて優秀な人が帰っても、活躍の場や役割を実感できないわけです。それを変えたい。電力はどんな地域でも需要があります。我々の作る地域エネルギー会社は若い人がやりがいを持って楽しめる仕事を提供したいと思っています。地域を真剣に考える良い人材が一人でも二人でもそこに住んで活動し始めると、絶対地域は変わります。ながの電力は一人優秀なメンバーが小布施に常駐しています。電力事業を通じて地域に良い人材が入るパスになるようにできたらと思っています。そうなると、地域社会での横展開も可能になってきます。

磯崎:エネルギー産業は国の政策にも大きく左右されます。エネルギー転換には時間がかかることもあり、地域の人からするとわかりづらいんですよね。まずは、地域の人たちに、エネルギー事業の意味やかかわり方などを広く伝えていくということかなと思っています。

馬上:ソーラーシェアリングの良いところは、若い人材が共感して取り組んでくれていることです。最初は市民電力向けに講演したりもしていましたが、驚くほどシニア人材ばかり(笑)。皆さんの子供や孫世代を連れてきて欲しかった。もっと若者を巻き込んで、地域の次世代が参加していくことが拡大にとっては必須だと思っています。千葉は立地の良さがあるので、今は高齢化率が高いのですが、やり方次第では若者を惹きつけることができると思っています。

国全体で見て、単純な人口増は今後あり得ません。ということは、結局地域間での若者人材の取り合いになります。千葉でいえば、いすみ市は若い人の流入もあるのですが、隣の町市は10年で10%人口減少が進んでいます。同じ地域内でも優勝劣敗が出てきているわけです。

無理をして集落を維持している地域もあるので、どこかでドライな見極めが必要になります。そうした地域でいずれ放置される発電所を作っても仕方がありません。むしろ地域のためになりません。例えば発電所インフラの取捨選択は、60〜70年前の戦後復興の中で一度経験しています。もう一度生活しやすい、輝ける地域にしようと取り組む地域が出てくるでしょう。エネルギー、水資源、そして食料を分散型循環社会で確保できるか、ではないかと思っています。

竹内:インフラの取捨選択は、行政がもっとも苦手なテーマですよね。メディアに「地方切り捨て」なんて書かれたら、政治は絶対に撤退を決められなくなるというのが目に浮かびます(笑)。でも本来はそういうしんどい判断をするのが政治。それをやらないといけませんし、そこから社会変革が進むということもあると思っています。

馬上:わかりやすい例が東日本大震災ですよね。元居たところに住みたいという気持ちに応えて再建されたところが多く、こうした例を踏まえますと、日本は最後の一人がいなくなるまで地域の各種インフラを維持してしまうという対応が現実的にあり得るのかもしれません。ユニバーサルサービスという考え方を捨てるのこともが必要で、電気も託送距離によって適正なコスト負担を迫ってそれでも住むかどうかを判断させるのが一つでしょう。今は衰退するインフラ、例えばコミュニティバスなどの交通インフラなども行政で担って維持してしまっていますが、持続可能ではないですよね。

<政府は何をすべきか>

竹内:政府に政策、制度設計の面で求めたいことはありますか?

馬上:大きく2つあります。一つは人材不足に対する対応で、地方大学に支援をしていただきたい。地方大学で、地元で活躍するエリートを育てる仕組みがありません。役場や農協の人材は本来地域のエリートだったはずです。今は外の人材の取り合いですが、その再配置が済んで仕舞えば、地域で自ら人材育成するしかありません。そこへの支援です。

もう一つは、ベンチャーやインキュベーションに対して、ローンではなくエクイティ資金を流す支援が必要です。千葉エコ・エネルギーも日銭のために余計な仕事といったら失礼ですがいろんな仕事で右往左往せざるを得ない時期がありました。地域で資金が回る仕組みが必要です。もちろん、投資ですから、100件投資して5件うまくいけばいいという割り切りが必要になりますが、そうしないとチャレンジが生まれません。

竹内:グリーンイノベーション推進のために、政府は2兆円基金を創設するとしています。あれがどのように使われるのかも注目していますが、ただ、関心がinvention的な取り組みに偏っており、地域で「あとちょっとで事業として成立する」という取り組みへの資金提供という話は出ていません。こういうところに資金が回ってほしいなと私も思っています。

馬上:地域社会に根差した事業は、最初の資金さえあれば強いんですよ。コミュニティファンドや地域金融機関が主体となって各種ビジネスの目利きをするなどの枠組みもいいかもしれません。

磯崎:僕も政府に期待するのは、ファイナンスへの期待です。地域の電源を作るのに、地域のお金を使いたいというシンプルな話なんですが地元の金融機関、地銀などに話しても全く理解してもらえません。FITを担保にしたとしても、都市部の金融機関なら乗ってくるところもあるんですが、地銀などは反応が鈍いんです。

また、化石燃料ベースのエネルギーのコストが炭素税などで上昇し、相対的に再エネが安価になるというのが必要だと思います。

竹内:炭素税は前回のこの座談会でも話題になりました。外部性を適正に評価するということで私も必要だと思っていますが、ただ、いまのエネルギー税制などが複雑に入り組んでいるのをちゃんとスクラップ&ビルドでやってほしいですね。あまりにつぎはぎが重ねられた状態なので。

磯野:エネルギーコストのフェアな姿が現状では見えてないということだと思っています。発電コストをもっと見える化したほうがいい。欧州の人と話すと、マーケットの仕組みの中で最も安いものにお金が流れるというのが明確です。

開発のファイナンスは、我々もほとんど自己資金です。リターンが低くても安定したものが求められるので、今で言うとセカンダリーマーケットが盛り上がっています。一度できたものにはいくらでもお金が出てきているが、新しい案件には全くお金が出てこないっておかしいですよね(笑)。

細かい規制の点でいうと、太陽光発電はどうやってもっと系統に連係していくかという観点はありますし、風力は15年前やっていた時よりも、条例なども含めた規制が強化されたことによってむしろ開発コストが下げとまってしまっている。

馬上:規制という点では、農地行政について言いたいです。農地行政は地方分権が完了している分野で、各地域が状況に合わせてやりなさいということになっています。再エネ導入を、国と地方のどちらが主導するかは今後検討されると思っていますが、市町村だけで合理的な対応をするのは難しいですし、事業モデルの汎用性も損なわれてしまいます。国による最低限の統一ルールを持ち、その上で地域裁量の領域を定めること。単に規制緩和ではなく、いかにしてゾーニングも含めて最適にするか。全て市場に任せて最適にさせるのも難しいので、制度設計は議論を尽くすべきでしょう。

<真の“地域エネルギー事業者”として>

竹内:皆さんが使われている“地域エネルギー事業者”あるいは“地域インフラ事業者”という言葉には非常に共感しました。一方で、紛らわしいといったら失礼かもしれませんが“地域新電力”という言葉も良く使われます。私自身は、失礼ながら本物の地域新電力は少ないと思っています。市場調達で小売りしているだけでは、地域に付加価値を提供することも難しいと感じています。本来的にはどんな役割を期待できるのか、あるいは、皆さんはどうとらえていらっしゃるかお伺いできますか?

磯崎:自分たちとしては、電源を作らない新電力は話にならないと以前から思っています。市場調達だけでは、請求書の管理業務が地域にあるだけです。あくまで電気を届けるので、まず電気を作る、どういう電気を届けたいのか、どう作りたいのを考え続けてきました。街のOSや電源開発などにこそ価値があって、今あるエネルギーをどう最適化するかを旧一般電気事業者の方たちとも議論しています。

馬上:弊社は、小売り事業は手掛けていません。やってこなかった理由は、現状ではまだ需要家のマインドがついてこないと思っていたことにありますが、エネルギーの供給責任は、エネルギーを作ることを担わないと果たせません。これは農業も同じです。イオンさんなど、大手小売業は皆自ら農業生産を行なっていますよね。電気は差別化が難しいとよく言われる通り、使用体験を変えることができません。世の中の人が意識することなく、インフラとして置き換えていくことが必要なのだと思います。地域新電力の電気を使えば特定の地域にこんな貢献できる、といった基本的なパッケージが必要で、それができる事業体だけが生き残ることになると思います。今回の市場高騰で見ても、新電力はこれまで業界として健全化していく動きが乏しかったのだろうと思いました。業界団体などを整備して、価値のある業態を目指すということになるのではないかと思っています。

磯野:弊社は“地域新電力”ではなく、“地域エネルギー会社”でありたいと思っています。お二人も仰っていた通り、電源を持たないとそもそも意味がないですよね。今回の市場高騰で皆気づいたとは思います。今回の経験で学び、入口は市場調達でも、電源を持っていこうという本物が出て産業が健全化することに期待しています。事業再編などもあるでしょう。そうした変化は認識しながら、自分たちは地域でしっかり根を張っていきたいと思っています。

竹内:産業の健全化を図るためにも、成功事例を作って見せていくことが大切ですね。

エネルギー事業は高い専門性を必要とされますし、それぞれの地域の特性も理解しなければ、真の地域エネルギー事業者にはなれないのだろうと思います。

大きなチャレンジをしている皆さんの一歩一歩の進化を今後も共有させていただければと思います。今日はありがとうございました。

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