寄稿

今冬の電力需給逼迫をどのように見るべきか(その2)

市村 健:エナジープールジャパン株式会社 代表取締役社長

(エネルギージャーナル社『環境とエネルギー』2021年3月4日付からの転載)

前回は、中長期的視点で今冬の電力需給逼迫を考えた。そのポイントは、欧州との比較においての三つである。第一にエネルギーセキュリティの重要性、第二にBGに対する供給義務マインドの更なる醸成、そして健全な市場構築に必要な情報公開の励行である。既に政府の審議会では様々な検証が進められているが、ここではDSR(需要側リソース)目線で、即応性のある対策を愚考したい。

安定供給の法的根拠

そもそも電力の安定供給とは、誰がどのように担保することで成り立っているのだろうか。改正電気事業法では、第2条の12の「供給能力の確保」、及び第17条「託送供給義務等」で電力供給義務が読み解ける。先ず、第2条の12。そこには「小売電気事業者は、正当な理由がある場合を除き、その小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保しなければならない。」と明示されている。いわゆる「供給能力確保義務」だ。一方、第17条では第1項で「一般送配電事業者は、正当な理由がなければ、その供給区域における託送供給を拒んではならない。」と規定し、第3項で「一般送配電事業者は、正当な理由がなければ、最終保障供給及び離島供給を拒んではならない。」と最終保証供給を義務付けている。加えて、第2項では「一般送配電事業者は、その電力量調整供給を行うために過剰な供給能力を確保しなければならないこととなるおそれがあるとき(中略)、その供給区域における電力量調整供給を拒んではならない。」として、調整力の確保も義務付けている。

つまり第2条の12の供給能力確保義務と、第17条の託送供給義務等をパッケージにして安定供給を達成するということだ。逆に言うと、どちらか欠けても安定供給はおぼつかなくなる。それでは今冬の需給逼迫はどういう状況だったのか。先ずは供給能力確保義務について。これは、30分同時同量を前提に発電側BGと小売側BGが一致することを原則とする。小売側BGは自分の顧客分の電気(アワー)を、発電事業者との相対契約でもJEPXからの調達でも、或いは自社所有の電源からでも、とにかく集めて(供給能力を確保して)バランスさせる。今回の問題は、有力な調達元であるJEPXのスポット市場で大幅なスパイクが数週間に亘り発生し、その調達資金が想定以上に嵩む現状があったことだ。売れば売るほど赤字になる事態であり、その際の企業行動は、インバランス料金との見合いでも、法律上の建付けと現実の企業行動に乖離が生じた。つまり第2条の12の供給能力確保義務が履行できない事態に至ったのである。そして、そのしわが一般送配電事業者に寄った。一義的には、GC(ゲートクローズ)後の一時間の枠内で、一般送配電事業者が調整力をかき集めて需給をマッチングさせなければならなかった。

共助と善意による対応

一般送配電事業者は、即物的に電源を保持することは無い。が、現状制度の下では調整力公募を通じて専用電源として「電源Ⅰ」を調整力として調達し、GC後の需給を一致させている。ところで、この電源Ⅰは揚水水力が主流であり、およそ約7割を占めるが、今冬のアワー不足では上ダムへのポンプアップに必要な電気が足りなくなった。水が汲み上げられなければ揚水水力は発電出来ない。その場合、今冬がそうだったように、以降は総力戦の様相を呈する。法律を超越した善意に根差した措置と言ってよい。先ずは既設火力への増出力運転の要請だ。当然ながら設備への負荷は大きくなるため、オペレーションには細心の注意を払いながら行ってもらう。並行して、休止している火力、具体的には石炭火力や石油火力と言った、エミッションゼロとは相容れない電源にも緊急避難的に再稼働をお願いする。今回は、それでも足りなかった。そこで自家発電機を所有する製造業に「応援」を要請した。旧知の大手メーカー幹部は後日「地元電力だけではなく、電力広域的運営推進機関さんからも『自家発のフル稼働をお願いします』と要請を受けたことで、相当の緊急事態であることを実感した」と語ってくれた。個人的な印象だが、今回の逼迫危機を乗り切れたのは人の情だったのではないか、とすら感じる。第2条の12とか17条とか、理屈を超えた「困った時はお互い様」という共助の精神が遺憾なく発揮された事例と言えよう。

扨、斯様な危機的状況は今後も想定し得る。そもそも日本は欧州からはkingdom of natural disaster(自然災害王国)と言われる国だ。東日本大震災から10年、先日(2月13日夜半)も震度6強の地震が発生した。つまり、地震や台風もいつどこで起こるのかもわからない。その時に、善意や共助に依拠した「力技」が通用するとは軽々に思わない方が良い。制度としてセイフティーネットを準備しなければならないし、事実、関係省庁では鋭意議論が進んでいるのは先に述べた通りだ。後は待ったなしのスピード感ある施策立案と、その実効性の担保である。

旧式火力の活用策

実は、今回の事例にヒントが隠されていると思料する。それは老朽火力の活用である。ご存じように地球温暖化対策として、経産省は2030年度までに段階的に石炭火力発電所を休廃止する方向だ。それは、電力大手や製造業の工場設備等、石炭火力140基のうち、旧式の約110基を指す。具体的には、発電効率38%以下の亜臨界圧(SUB-C)や38~40%程度の超臨界圧(SC)など石炭火力で、その量は旧一電・その他発電事業者等を合わせて2400万kW強存在する。それらを、石油火力等と併せて今冬のようなアワー不足時に活用する電源として、公募の形で一般送配電事業者が手配しておくことは有効と愚考する。考え方としては、電源イチダッシュの外側で、超稀頻度リスク対応、或いはイチダッシュ・ダッシュと言えよう。今冬は善意や共助の精神でそれらを供出して頂いたが、今後は制度的な裏付けを以て公募で予め調達しておけば納得感は得られるはずだ。

DSRの活用策

それは電源に留まらない。今冬のアワー不足においても電源イチダッシュは相応に機能した。東京電力PG管内でも4日連続×2週間=8回発動され、一定のLNG量節約に貢献出来たと、DR事業者として自負している(図参照)。一義的には、DRはkW不足対応に有効であり、アワー不足には向かないと考えられている。確かにその側面は否定しない。が、予め準備し、所与の対策を講じておけば、例えば一週間×24時間=168時間連続のネガワット供出は不可能ではない。今回の事例でも、一週目に限って言えばkW価値は目減ることなく安定的に供出出来た。弊社のプログラムに参画頂いている需要家様からのフィードバックにも「一日3時間でも8時間でも、炉の熱上げ等を考慮すれば、余り変わらない。一定の予告があれば、数日間の停止は出来ないことは無い。」とあった。

このように考えると、一般送配電事業者向けのアワー不足に対処し得る電源公募調達を、電源枠・DSR枠として今後準備することは、短期的視点では即効性のあるものだと考える。

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