新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は、気候変動問題に対する社会の関心が大きく盛り上がり、本年1月に開催されたダボス会議でも「気候変動問題を口にしなかった人はいなかった」と言われたほどでした。わが国でも再生可能エネルギーに対する期待やESG投資の促進に関する報道を目にしない日はありませんでした。しかし、コロナ・ショックにより、社会が大きな転換点を迎えつつあることは確実であり、エネルギー・環境問題に関する政策や事業環境がどう動くのかについても全く不透明な状況になっています。「原油価格マイナスの衝撃」に続いて、温暖化政策の今後や再生可能エネルギー投資の動向について、エネルギー・アナリストの大場紀章さんと議論した、第2弾。再生可能エネルギー拡大やエネルギーミックス達成について議論しました。
【再生可能エネルギー投資はどう動く】
大場:確かに、今回のコロナのことがあったとしても再生可能エネルギー投資が続くと期待する向きは強いですね。特に、原油需要が急減して石油産業が大打撃をうけたことで、イメージとして再エネにさらに勢いがつくと期待している人もいるようです。普通は原油価格が下落すれば、電源としてみた場合、相対的に再エネの競争力は弱くなるはずなんですが、投資対象としてみた場合、再エネの方が石油のように大きな変動なく手堅く利益を得られるという考え方です。IEA(国際エネルギー機関)やIRENA(国際再生可能エネルギー機関)なども、再エネへの投資が活気づけば、そこに雇用が発生するという言い方をしていますが、人の雇用と言うのはそれほど単純ではありません。原油価格マイナスの衝撃のところでもお話しましたが、掘削事業の仕事が壊滅的になれば、他の仕事につかざるを得ません。3年から5年、別の仕事をすれば生活の基盤も新しい仕事にあわせた形で構築されますので、計算上は投資すれば雇用がつくということになりますが、それは再エネ派の「味方づくり」でしかないように思えます。
僕が再生可能エネルギー拡大のハードルと見ているのは、実は地域とのコミュニケーションです。信頼を得て地域に受け入れられなければ立地できないわけで、投資の問題以上にそれがネックになると思っています。コロナで地域説明会なども開催が難しいでしょうし、地方でオンライン説明会という訳にはいかないでしょう。
少なくとも、今年計画されていた案件の進捗は遅くならざるを得ないですし、既に世界的に 大きなプロジェクトが地元の同意を得られずに遅延するというのは起きています。僕は、イメージから来る期待どおりの追い風にはならないのではと思っています。
竹内:再生可能エネルギーのハードルが地域とのコミュニケーションと言うのは、全く同じ意見です。U3イノベーションズで昨年10か月かけて、太陽光発電事業関係者の方々にヒアリングをさせていただくなどして、太陽光発電産業の将来像を考えてみました。そのエッセンスは先日こちらのウェブサイトにも「太陽光発電産業の持続可能性を考える」として3回シリーズで公表していますので、詳細はそちらに譲りますが、改めて地域のエネルギー資源として、地域に貢献する存在になるというのが大前提だと思っています。
家庭の屋根であれば住宅産業のなかにちゃんと組み込んで、消費者が太陽光発電の価値を感じられる仕掛けを、ショッピングセンターや工場など業務用建物の屋根であれば徹底したコスト低減とRE100などの仕掛けの併用を、そして野立ての太陽光については地域のエネルギー資源となっていくというかたちで、セグメント毎に丁寧に課題を解決していく段階にあるのだろうと思っています。
大場:そうですね、その「太陽光発電産業の持続可能性を考える」の連載で仰っていたことは非常に納得感がありました。日本の再エネについては「これだ!」という打ち手が思い浮かばないのですが、仰る通りセグメント毎に丁寧にやっていくという段階なのかもしれませんね。
竹内:これをやればいいという打ち手が思いつかないというのは、逆に、太陽光が普及してきたし、コストも下がってビジネスベースで回るようになってきたということの裏返しかもしれませんよね。もう一段コストが安くなると圧倒的に普及するはずなので、太陽光発電事業の関係者の奮起を期待したいところです。FIT制度がそうした事業者さんをちゃんと育ててこなかったということは懸念点ですが・・。
【日本の2030年エネルギーミックスの達成は】
竹内:2030年のエネルギーミックス達成をどう見ておられます?
大場:それはまたハードなご質問で(笑)。再生可能エネルギー、特に太陽光については、今お話した通りで、政策的に力技で何かやるという段階ではなく、細やかに課題を解決していく段階なのかなと思っています。そうなるともう一つの低炭素電源である原子力がどうなるかですが、それはもう政治次第ですからね。
米国の911テロの後、飛行機に乗ることはリスクだとして、自家用車で移動する人が増え、結果自動車事故で亡くなった数の方が、テロで亡くなった方よりもずっと多くなったというのは有名な話です。政治は、必ずしも一人でも亡くなる方の数を少なくすることだけを目標にやっているのではなく、明確に政治のせいで死ぬという人の数を最小化することを目指すわけです。それが現在の民主主義の限界とも言えます。
原子力についても同じことが言えると思っていて、原子力を止めたことによって生活を失ったり、経済的基盤を失った人がいたとしても、その因果関係が明確に示されるものではありません。そうなると、わが国で既存の原子力発電所を再稼働することはできても、将来に向けて原子力発電所を新設するといったようなことは、よほどの独裁者が出てこない限り無理だと思います。
竹内:そうですね。担い手である電力会社の側もここまで事業の予見可能性が無いと、もうできるならやめたいと思うのではないでしょうか。少なくとも、もし私が電力会社のトップであれば、「やりたくないです」って政府に言うと思います(笑)。
ただ、2050年に向けてデジタル化は進むわけで、デジタル・デバイスが灯油やガスで動くはずがありませんから電力需要はその点では増えます。また、今回のコロナ禍でもそうですが、医療機器や介護機器と言うのも電気で動き、しかも停電したらそれこそ命に関わるわけで、これから供給信頼度もますます問われることになるでしょう。低炭素化に向けて電化が進むというのもあるわけです。そうした中で、原子力という手段を全く手放してしまって良いのかと言うのは、もっと議論すべきテーマだとは思っています。
大場:そうですね。それはまたこの対談でないところででも(笑)。
竹内:そうしましょう!とりあえず今日は一旦ここで。また引き続き、自動車産業の未来などについてもお話聞かせてください。ありがとうございました!