談論風発

Utility3.0のキーワードは「地域」(後半)

前回に続き、 大阪大学大学院工学研究科招聘教授の西村陽氏と、U3イノベーションズの竹内の対談をお届けします。後半では、期待する技術分野や人口減少・過疎化の乗り越え方、エネルギー事業者のあるべき姿などについて議論しました。

注目する技術分野

竹内:次に伺いたいのは、西村さんが注目する技術分野です。

西村:一つの焦点は、電気自動車だと思いますよ。オリンピックに向けてEVは導入が進むと思いますが、電気自動車の将来についてOEMはそれほど楽観的ではありません。それはなぜかといえば、「サービサー不在」です。

竹内:確かにそうですね。海外では、V1GやV2Gの運用、急速充電器に蓄電池を設けてピーク管理を行うようなベンチャー企業が多数登場しています。昨年、今年とU3イノベーションズの二人も参加した、Japan Energy Challengeでもそうしたベンチャー企業が多く参加していました。日本でEVが普及するにもサービサーが必要というのはご指摘の通りですね。

西村:しかし今のところ、エネルギー事業者ではやり切れないでしょう。ビジネスモデルが定まるまでは、ベンチャー企業がゼロイチを引っ張り、その後、大手企業が資本参加するというエコシステムが必要です。こういうことをきちんとやっていくと、“Utility3.0の世界”に近づいてくるわけですよ!

竹内:どこかの本に書いてあったようなやつですね(笑)!

西村:もう一つはパワコンの技術ですね。同じくご著書にかかれていた通り、人口減少・過疎化は不可避であり、自立型グリッドやオフグリッド化をこれから真剣に進めていかねばなりません。ただ、事故検知や復旧といった技術課題が色々と出てきますし、今のままでは、自立型グリッドは経済性は間違いなく合わない。非連続的な技術革新でコストが見合うようになるかどうかですが、パワコンの先進技術は実は日本が持っているので、ここに期待しています。

人口減少・過疎化をどう乗り越えるか

竹内:自立型グリッド、オフグリッドというテーマは、地域におけるエネルギーマネジメントそのものだと思っています。ここから日本のエネルギー産業が向き合う大きな課題の一つである人口減少・過疎化についてお話したいと思います。

西村:今後メガソーラーが設置できるような地域は、人口減少が加速度的に進むエリアです。放っておけば電気を作るだけのエリアになり、人がいなくなってしまうかもしれませんが、メガソーラーを地域資源と位置付けて、地域のエネルギー需要を電化していくことで、いろいろは不便を解消できるし、デジタル化も支えられます。もちろん安定的に供給するには、需要に対して5倍程度の供給力を持たねばならないでしょうし、そう簡単ではありません。けれど、ご一緒している公益事業学会でも議論している通り、水道よりは発展的なソリューションがあるのではないかと思っています。水道は、地域格差を補填して支え合うしかないですからね。

竹内:地域の需給を一体的に考えていくべきという点でも合意できましたね(笑)。

西村:あ、でもあの本に全て同意というわけではなく、これはどうかなぁと思う点もありましたよ。あの本では、「UXコーディネーター」という新たなプレーヤーが登場して、小売電気事業者は一旦消滅する、としていたけれど、そこは半信半疑。今の電力会社もkWhを販売するだけの会社でとどまり続けることは無くて、どんどん顧客価値を創造していくんだろうと思うんですよね。

例えばこれから屋根置きの太陽光発電や蓄電池について、TPO(第三者所有)モデルの発展が期待されています。でも、自分の家や会社の屋根を誰かに貸すには、その事業者を信頼できることが大前提になる訳です。

竹内:そこはまさにエンドユーザーの信頼を得ているエネルギー事業者の出番ですよね。顧客エンゲージメントを持っているエネルギー事業者が、信頼を軸に再エネに取り組むことが必要ですよね。

地域・信頼・安定+イノベーション

竹内:前半で、大手企業とベンチャー企業の連携には、まず大手企業がマインドセットを変えることが必要というコメントをいただきましたが、併せて、新しい商品や技術の提案を評価するための「目利き力」を持つことが必要だと考えています。サービスを受ける人の立場に立って商品や技術を評価することを、組織としてできなければなりません。たまたま選球眼のある人がそういうポジションにあるということではなく、組織としての目利き力を高めていく必要がありますよね。

西村:そして仲介役ね。スマホのアプリを評価するわけではないので、エネルギー供給事業における市場の在り方やルールの違いなどを踏まえて橋渡ししてくれる存在は特に日本では必要だろうと思います。

竹内:ありがとうございます(笑)。U3イノベーションズとしても、わが国のエネルギー産業の転換に向けて、仲介役を果たせるようになりたいと思っています。これからエネルギービジネスにおけるベンチャー企業の層が厚くなることを期待していますが、一方で、既存の大手エネルギー事業者でなければできないこともあるわけです。大手エネルギー事業者はいま何をすべきなのでしょうか?

西村:大手エネルギー事業者に対する株主の期待が何かといえば、安定性ですよね。ですから、過度なチャレンジや成長を追い求めるのはちょっと違う。大成功することより、大失敗しないことが重要だというのは今までも、そしてこれからも変わらないと思うんです。

竹内:地域・信頼・安定あたりがキーワードですか?でも、5つのDを乗り越えるためには、イノベーションが必要で、イノベーションはチャレンジによってしか生まれません。そのバランスが難しいところでしょうか。

西村:垂直統合していてもDuke Energyはデータサイエンティストを数千人の単位で抱えており、イノベーティブであり続けています。地域・信頼・安定といったキーワードとイノベーションは決して両立しえないものではないと思います。電力インフラの重要性は台風15号による停電を見るまでもなく明らかであり、地域の社会インフラの核です。この産業が常にイノベーティブであり、アクセラレーションの質を高めていくことは、日本社会が生き残れるかどうかの分岐点だ、くらいの覚悟を持つべきでしょうね。

竹内:なるほど、仰る通りですね。示唆深いお話をありがとうございました。また公益事業学会や次世代の電力プラットフォーム研究会で議論させていただくことを楽しみにしています!

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