前回は地上設置型太陽光発電事業の課題を取り上げました。
今回は、屋根置き型太陽光発電事業について整理したいと思います。
まず住宅の屋根置きですが、実は導入件数が伸びていません。現在、住宅総数の8.3%が太陽光発電を搭載しているとのことですが(図1参照)、単年度の導入件数はFIT制度が導入された2012年から毎年急速に下落しています。
それでも、新築住宅についてはハウスメーカーが販売するZEH等によってある程度の導入件数が維持されていますが、既設住宅への導入が進んでいないのです。
既設住宅は耐荷重に問題がある場合は耐震補強などを施さないと導入できませんし、施工事業者にとっては瑕疵担保責任への対応なども課題となります。また、そもそも太陽光発電設備のようにコスト回収が長期にわたる大きな投資をしてもあと何年その住宅に居住するのか、住宅の寿命と太陽光発電設備の寿命との不一致が懸念される場合には投資を控えることになるでしょう。
加えて、中古住宅市場の中で太陽光発電を設置した住宅が積極的に評価される仕組みがありません。そもそも日本は「新築至上主義」ともいわれ中古住宅流通が欧米に比べて圧倒的に少ないことは皆さんもご存知かと思います。(令和元年の新設住宅着工戸数は約90.5万戸でしたが、FRK既存住宅流通推計量(平成25年)で 51.4万件、住宅・土地統計調査による既存住宅流通量は16.9万戸であり、国土交通省は「我が国の全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは欧米の1/6程度」としています。)中古住宅の仲介サイトなどを見ても、太陽光発電を搭載している物件が探しやすいわけではありません。また、太陽光発電を搭載していることでそこに住むとエネルギーコストでどのようなメリットがあるかといった情報はほとんど提供されていない状況です。太陽光発電を搭載していることが住宅の付加価値として十分に認知されていないのだろうと思います。
さらに、今後の懸念として、太陽光発電を搭載した住宅の「空き家問題」が挙げられます。2021年度末には卒FIT住宅が約98万戸に達するわけですが、そのうちどのくらいが空き家になるのでしょうか?平成 26 年空家実態調査によれば、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%になっているそうですが、その多くは1970~80年代に建てられた家で、この年代の住宅は基本的に耐震性の問題から太陽光発電は搭載されていないと考えます。1990~2000年、2000年以降に竣工した住宅を対象にした空き家率はそれぞれ、2.5%、1.4%だそうです(平成26年空家実態調査)。これと同じ比率で卒FIT住宅が空き家化するのであれば、約1.6万戸の太陽光搭載住宅が空き家になるという計算になります。太陽光発電を搭載するくらいなので、長期的に住むというケースが多いかもしれません。空き家率を一般の1/10程度と見ても約1600戸の太陽光搭載住宅が空き家になる訳です(図2参照)。
太陽光発電は電気設備であり、太陽が照れば発電してしまいます。適切なメンテナンスが期待できない状態で長く放置され、1600戸のうち1軒でも2軒でも火災などの深刻な事態を引き起こせば、消費者は屋根上の太陽光発電を忌避するようにすらなってしまうかもしれません。
太陽光発電のコスト低下が進み、単純なkWhの値段で比較すれば系統電力と相当競争力を持つようになってきました。その上、自然災害の時に系統電力が長期間停止したとしても、太陽光発電を搭載していれば最低限の電力を得ることはできることが、2019年の台風19号などの経験からも明らかになっています。CO2削減の観点からだけでなく、できるだけ多くの住宅で太陽光発電を導入することが期待されている一方で、足元では太陽光発電がもたらす価値が十分に消費者に可視化されておらず、従って冒頭で述べた通り、住宅用太陽光発電の導入が伸び悩んでいるのだと考えられます。
こうした状況を打開するには、太陽光発電を搭載した住宅が消費者にもたらす価値を分かりやすく可視化することが重要です。そのための一案ですが、まず既築住宅の表示制度への組み込みが必要であると考えています。現在の表示制度は、BELS/ZEHなどの新築での運用に主眼が置かれていますが、太陽光発電が社会インフラとして継続利用されるためには、既築住宅の表示制度の充実も求められます。その家に住んだ場合に想定される電気代削減額や、太陽光発電のメンテナンス状態(残存価値)等を第三者が査定し、不動産情報サイト事業者等と連携して、中古住宅の買い手に提供する仕組みを構築することも一案でしょう。
社会ストックとして太陽光搭載住宅が継続的に利用されていくための仕組みづくりを働きかけることが必要です。
最後に取り上げたいのが、非住宅(工場や商業施設など)屋根での太陽光発電導入です。このカテゴリーはこれまでほとんど空白地帯だったといっても過言ではありません。しかし気候変動問題への対応を企業に促すCDPあるいはRE100の後押しもあり、今後は拡大が期待されています。しかし、何もしなければその追い風に乗ることはできません。太陽光発電産業の担い手がやらねばならないことは多くあります。
例えばコンビニエンスストアなどの小規模商業施設などは、店舗の移転が頻繁に行われます。移設コスト込みでもペイするように、コストを作りこまねばなりません。屋根の特性に対応した架台や工法の開発も必要です。需要家のロードカーブを丁寧に分析して、蓄電池導入によるコストメリットを試算したり、初期投資を抑制するビジネスモデルを創出したり、やれることはたくさんあります。
太陽光発電が生み出した環境価値が非化石価値市場などによって簡易に取引できるようになること、系統電源との共生・協調に向けて太陽光発電事業者と送配電事業者が連携していくことも必要です。いずれにしても前編で書いた通り、制度設計の不備・不足も修正していかねばなりませんが、産業としての習熟度を高めていくことが今後の日本の太陽光発電を左右するのであろうと思っています。
日本の太陽光発電、これからが勝負です。