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必要は発明の母 不便はイノベーションの父

今回はちょっとエネルギーを離れて、日本で維持されている重要なユニバーサル・サービスの一つである郵便について考えてみたいと思います。通信手段としては、メールやSNSなど電子媒体にすっかり取って代わられた感のあるSnail Mail(郵便)ですが、全国どこへでも、均一の料金で手紙や葉書を届けるという公共的なサービスを、誰もが等しく受けられることの意義からか、民営化以降も当たり前のように維持され続けています。

しかし人口減少・過疎化の波にあらがえないことはエネルギーと同様であり、総務省では情報通信審議会郵政政策部会の下で今後のサービスの在り方などについて議論を行ってきました。

「少子高齢化、人口減少社会等における郵便局の役割と利用者目線に立った郵便局の利便性向上策」についてという資料を見ると、郵便局の合計数は、公社時代は減少していたものの、民営化後は逆に大きな変化はないこと( 直営局:20,241(H19.10.1) →20,154(H29.12末)[▲87]、簡易局:4,299(H19.10.1) →4,250 (H29.12末)[▲49])、こうして張り巡らされた郵便局ネットワークのおかげで郵便局への平均距離は630mであり、他の公的機関などと比較して最も身近な窓口機関であることが強調されています(主な公的機関等までの平均距離 コンビニ:560m、小学校:680m、警察署・交番:830m、国内銀行:860m、市町村役場:1.29km)。

しかし、その窓口を訪れる人数は、過疎地の郵便局では平均41人/日、過疎地以外の郵便局が131人/日。過疎地の郵便局(約7,600局)の実態をより詳しく見れば、約半数(3,411局)が20人/日以下。 さらにその約半数(1,548局)が窓口来客数10人以下とのこと。

窓口来客数10人以下の郵便局の大半が簡易郵便局だとしても、こうしたサービスを維持し続けるためには、よほど高付加価値化を図っていくか、維持コストの低減を図っていくか、あるいはその両方が求められることは間違いないでしょう。

こうした状況や郵便局員の働き方改革の観点もあって、土日配達の廃止が検討されたことは、報道でも多く取り上げられましたので耳にした方も多くおられるかもしれません。しかしこれに待ったをかけたのが「新聞」でした。日本の新聞は戸別配送95%を誇るそうですが、中山間地域や離島では、新聞の戸別配達を郵便が補完的に行っているそうで、土日の郵便配達廃止に伴って、新聞の読者に影響が及ぶというのがその理由です。

今年1月に一般社団法人日本新聞協会が委員会に提出した「新聞販売所の郵送扱い 新聞送達の現状について」では、こうした郵送扱いで読者宅に届けられる新聞は約3万部/日ほどあり、「土曜日付けの新聞が2日遅れで届くようなことになれば(中略)公共的情報の入手が遅れ、読者に不便を強いることになる」というのがその理由です。

委員会は結局その主張を受け入れ、土曜日配達を維持する方向のようで、5月8日に開催された委員会に提出された資料「郵便サービス見直しに係る主な論点への対応」によれば、「現在郵送されている日刊紙であって、引受当日の配達を行っているものについて、土曜配達を引き続き実施する。」と書かれています。なんと、要はこれまでやっていることは続けましょうという結論です。コストについては「土曜に配達する費用として、差出人から一定程度ご負担いただく。」とありますが、すべてのコストを回収するには届かないでしょう。

私自身も紙の新聞が好きなので、今でも電子版だけでなく配達される新聞を楽しんではいます。自分が都会にいて、配達サービスを当たり前のように享受しながらこういうことを言うのは気が引けますが、こうしたサービスを維持することが、本当に国民のためになるのでしょうか?

先ほどご紹介した日本新聞協会提出の資料には、「郵送でないと配達できない地域は、即売紙が購読できるコンビニエンスストアや駅売店が近くに存在しない山間地や過疎地と思われ、ネット情報の入手に慣れていない高齢者も多いと考えられます。」とありま。たしかに一時的には不便を強いることにもなるでしょう。しかし、必要は発明の母であり、不便はイノベーションの父です。紙の新聞が配達されなくなれば、それをきっかけに、人口減少・過疎化地域に住む高齢者のネットリテラシーが飛躍的に向上する可能性もあるのではないでしょうか。

今後維持が困難になるのは新聞の戸別配送だけでなく、交通や行政サービスなども同様です。MaaSなどの新しいサービスを使いこなすためにも、自治体の出張窓口などの減少に対応するためにも、ネットを使いこなせることは今後人口減少・過疎化地域で生きていく上では必須のスキルになることは確実です。過疎地に住む高齢者の皆さんのネットリテラシーが飛躍的に向上すれば、デジタル社会に適応したリープフロッグ型進歩が可能になるかもしれません。

いま、「これまで通りのサービスを維持する」ことが本当に求められているのかどうかを真摯に考えるべき時ですし、郵便制度が地方の公共インフラの核として高付加価値化していく道を目指すのであれば、どのような公共サービスと融合していくのかというビジョンを策定する必要があります。

「やめられないから、これまで通りね」。それは優しさではないことを社会が早く認識すべきではないでしょうか。

地方ではお野菜包むのに、新聞紙重宝することも多いのではありますが・・。

写真は郵便局の方に頂いた貯金箱。貯金箱にコインを入れる瞬間のちょっとしたワクワク感、懐かしいですね。