弊社のblogをご覧くださっている皆様には釈迦に説法かもしれませんが、電気には3つの価値があり、それらを健全に維持できて初めて、電気の安定供給が可能になります。
発電事業は、
・kWh価値(エネルギーとしての電気の価値)
・kW価値(需要が最大になった時にもそれを賄えるだけの供給力)
・ΔkW価値(供給力を細かく変動させ周波数を安定させる価値)
の3つの価値を提供する事業といえるのです。
これまで、人間がコントロールできる従来型発電所がメインであった時代には、その発電所がこれらの3つの価値を「おまとめパック」で提供し、エネルギー(kWh価値)の対価を得ることでそれらすべての価値を提供できるようにしてきました。
しかし、燃料費がかからない(=限界費用がほぼゼロ)の再生可能エネルギーが大量に導入されkWh価値の市場価格が今大幅に下落しています。再生可能エネルギーの以外の発電所は発電する機会も得づらくなりました。彼らが提供するkW価値、ΔkW価値を当面必要とするのであれば、その価値を市場で顕在化させ、正当な対価を与えなければ、電力の安定供給が維持できなくなってしまいます。たとえ投資回収が終わっていたとしても、発電所のメンテナンスコストは必要であり、それは燃料費の回収しかできない限界費用入札を(自主的取り組みと称して)強制されている現状では、発電所の維持ができなくなってしまうからです。
再生可能エネルギーの導入量が少ないうちには、安定供給の価値についてはタダ乗りするということが許容されたとしても、「主力電源化」を目指すには、kW価値、ΔkW価値が適切に評価されることが必要であることは、諸外国の制度設計の例を見ても明らかです。
(なお、kWh市場だけで3つの価値の対価を賄うという選択をした国・地域もありますが、そこでは、あるタイミングで1kWhの電気が通常の数十倍といった望外な価格になることが許容されています。)
わが国では、可変費(燃料費)が高く、稼働させる機会は多くないものの安定供給のために必要な電源の投資回収が確保できない状態が長く放置されてきましたので、容量市場の創設が議論され、今回初めて2024年の供給力に関する入札が行われたわけです。
では、今回の容量市場のオークション結果は「適切であった」と評価できるのでしょうか。
入札結果によってその適否を議論するというのは、電力システムに市場原理を導入した精神にもとるのは確かです。ただ、安定供給の価値という可視化しづらいものを市場化しますので、どの国も、議論を重ねて改善を図っていることも事実です。
次回以降の入札に向けこの容量市場の制度設計がどうあるべきか、立場を超えて議論する場を設けたいと思い、ここに緊急企画として立ち上げました。
第1回は「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」の共著者でもある戸田直樹さんに書いていただきました。今後、新電力の皆さんや他の研究者の皆さまからも議論提起を頂きたいと思っています。活発でフラットな議論を、立場を超えて喚起することで、日本の消費者利益の最大化を目指していきたいと思います。